どこまでも玩具
第9章 質された前科
ちょっと嘘を吐いた。
「先に言いなよ」
オレはポケットの紙を渡す。
アカの母親の住所を調べるついでに、紅乃木という住所を県内で探したのだ。
全部で四件。
類沢は驚いたように紙を眺めた。
「行動早いね」
「親友の危機だからな」
もう十一時。
今からは訪ねられない。
やるせなさに歯を食いしばる。
「……顔見ればわかる?」
「正直、不安だけど」
ギシ。
類沢が立ち上がっただけで壁際まで逃げる。
阿呆か。
自分に呆れながらも、警戒する。
類沢はクスリと笑って、テーブルにメモを置くと、黒い鞄を取り出した。
ノートパソコンを置く。
「なに、するんだ」
「住所さえわかれば衛星から大体の地理的位置もわかるし、今どきは家の前の通りまで画像で追える」
チャリと鍵を机に投げ出す。
「運転するのは僕だからね」
「表の車、先生のかよ」
高級車が停まってる。
そう思ったのだ。
気になって画面を覗きに近づく。
「一件目。ここから十分てところ。垣根が多いね」
「日本庭園か」
オレは特徴を書き留める。
小気味よくクリック音が部屋に響く。
すぐに次の画像が現れた。
「二件目」
「うわ、また豪華な……」
大きな門に、高い塀。
広い家だ。
白を基調とした博物館みたいな家。
生活感が余り感じられない。
「遠いね……」
ほとんど県境だ。
高級住宅街の一角。
三件目は市の真ん中。
一般的な一軒家。
車が二台停まっているので、可能性は低いと判断する。
四件目。
「ここは見たことある」
「近所?」
「いや、登下校に見える」
淡いピンクの三階建て。
光を取り込む沢山の窓。
広い庭。
犬小屋もある。
「ここも違いそう……」
「一と二が怪しいね」
クルッと類沢が振り向いた。
数秒ぼんやりして、オレは飛び退いた。
「油断してる」
「してねぇっつの」
類沢は唇を舐めてオレを見つめた。
「親友……ねぇ」
「なんだよ」
「似てないなぁって」
「は?」
パソコンをプリンターに繋ぎ、手早くコピーをとる。
「幼馴染み?」
「そうだけど」
写真を印刷した紙をペラペラ確認している。
「羨ましいな」
「え?」
類沢は背を向けたまま、紙の端を揃える。
聞き間違いか。
だが、その背中は何か訴えていた。