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どこまでも玩具

第2章 荒らされた日常

 チャイムが鳴る。
 朝のホームルームが終わった。
「なぁ、アカ。瑞希帰ってきてないよな?」
 金原は彼の机に寄りかかる。
 頬杖をついていたアカがふっと体を起こす。
「……心配だよな」
「探しに行かね?」
「あと五分でか?」
 時計を見ると、数分で始業だ。
 だが、なにが問題だろうか。
「みぃずき……行くか」
 アカが囁いて立ち上がった。

 廊下に出ると、喧騒の真っ只中に放り出された気分になる。
 受験生と言えど、休み時間には生徒の雑談で満たされる。
「職員室かな」
 二人は一階の南校舎に向かった。
 冷房の効いた職員室に入り、篠田の机を見るが、本人はいない。
 担当表を確認すると、篠田は三限まで授業が入っていなかった。
「他には……反省室とか」
 アカが嫌な顔をして呟く。
 昔タバコがバレて入ったことがあるらしいが、余程恐ろしかったのか一度も話してくれない。
 金原は苦笑いして目的地を地下に変える。
 そもそも学校において地下室がある自体異様だ。
 いくら反省の為とは言え、体罰もいいところだ。
 女生徒の間では、処女が奪われるどうだのと怖いことを話していた。
 コツコツと音を立てて階段を降りる。
 真っ暗だ。
 物音一つしない。
 空気が喉を塞ぐように重く、二人は口を押さえた。
 ゆっくり奥に進む。
 隔離病棟のような真っ白な壁が嫌に暗闇に光る。
 一番奥の扉に耳をつけるが、何も聞こえない。
 ここでも無いらしい。
 二度と入る機会が無いことを祈って、二人はそこを後にした。

「今朝さ、瑞希おかしかったんだ」
「どんな?」
 ひとまず中庭に落ち着き、ベンチに座った。
 既に二限が始まり、廊下を歩く人影は見えない。
「なんつうか……顔色悪くてさ。保健室連れてこうとしたら」
 金原は宙を見てハッとする。
「どした?」
 アカはその視線を追うが、特に変わったものはない。
「……オレ、馬鹿だ。アカ、今すぐ保健室向かうぞ!」
「はあ?」
 金原は逸る気持ちを抑えてアカに説明しようとする。
「つまり、あれだけ嫌がる保健室で、その理由となることが行われてるに違いないって?」
「そう」
「どこの担任が生徒を保健室に強制連行なんざ……する」
 アカも青ざめて金原を見上げる。
「……まさか」
「そのまさかを確かめに行こうって言ってるんだ」

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