テキストサイズ

どこまでも玩具

第9章 質された前科


 あの晩、父は意識が無かった。
 真っ暗な部屋の中、寝息を立てて。
 コトが終わって自分で通報した。
 悪漢にやられた、と。
 父以外なら誰にバレても構わない嘘だった。
 なのに。
 どうして。
 なんで貴方は知ってるんだ。
 父さん。
―哲、愛してるよ―
 なんで覚えてるんだ。
―例え、お前が殺したいほど憎んででもね―
 枷。
 ガチャガチャと絡まって。
 言葉の枷が離さない。
―これはただの躾。息子が犯罪者になったのは父親の責任だからな。だから、悪い空気も浴びないように家に閉じ込めてあげよう―
―誰が来たって大丈夫。父さんが守ってやるからな―
 そう言った父の目は
 見たことない位澄んでいて
 見たことない位

 狂っていた。


 こうなったのはおれの所為。
 そんなバカな話があるかよ。
 舌に犬歯を立てる。
 このまま柔らかいコレを咬み千切ってしまえば……
 ギリ。
 鉄の味に、反射的に顎が緩んだ。
 そのまま口を開ける。
 なにを考えてるんだ。
 死んで父の所有物になりたくなんかないのに。
 でも、限界が近い。
「だ……れか」
 口が乾いて声が出ない。
 早くしないと。
 ジャラ。
 身を起こす。
 父は出掛けた。
 唯一自由な手でベッドを探る。
 あった。
 鎖を括り付けた柱。
 その柱を見つめる。
 それから部屋の端の鞄を見る。
 父に取り上げられていないナイフが、二本隠してある。
 ポケットを一つ縫い、その中に。
 鞄までは行けない。
 ベッドから降り、ギリギリの場所で手を伸ばす。
 中指は当たる。
 もしかしたら取れるかもしれない。
 歯を食いしばる。
 何度も取ろうともがく度、腕がひきつる。
 激痛が走る。
 こんなもの。
 あと少し。
 ガッ。
 鞄の紐が指にかかる。
 そのまま引き寄せる。
 ズズッと引きずって。
「はぁ……あっ」
 息を整え、鞄を漁る。
 底に指をかけると、ナイフがあった。
 よし。
 おれは柱を睨みつけ、そこに刃をあてた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ