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どこまでも玩具

第10章 晴らされた執念

 
「あのさ」
 シートベルトに掴まる俺をミラー越しに類沢が見る。
 金原も何かと顔を上げた。
 既に高速に入り、半時間が経過していた。
「後ろの車に見覚えある?」
「へ?」
 金原と同時に振り返る。
 黒の軽自動車。
 所謂国産車って奴で、毎日見かけるようなありふれた車。
「あれがどうかしました?」
 類沢はサングラスを掛けながら呟いた。
「高速入る前からずっとついて来てるんだよね」
 目の前に太陽が現れる。
 俺は目を細めて、後ろを向いた。
 光に照らされる黒い車体。
 不穏な気配。
 運転席に座る人物は反射して見えない。
「尾行されてるってこと?」
 金原の声に余裕が混じる。
 こんな経験ないからだ。
 すぐには信じられない。
 類沢はスピードを上げ、車線を変えた。
 後ろの車もすぐに追いかける。
 ぞくりとした。
 それから一台抜き元の車線に戻る。
 黒い車は見えない。
 安心した瞬間、バックミラーにそれが映った。
 同じように車を抜かして、今度は隣の車線で後ろについた。
「なんだあれ……」
 金原の言葉は全員が感じていた。
 「心覚えがある人?」
 俺も金原も首を振る。
 ギシ。
 ハンドルが鳴る。
 類沢の肩に力が入っている。
 またスピードを上げ、車を抜かす。
 そのまま出口に向かった。
「ここで一緒に降りたら確実だね」
 緊張して後ろを見守る。
 ゲートをくぐり抜けた時、一台の車が追ってきた。
「マジ?」
「類沢先生……実は闇の組織に追われてたり」
「しないよ」
「ですよね」
 街中に入ると、黒い車とも距離が空いた。
 目的の家を見つけ、その白すぎる壁に威圧されながらも車を降りる。
 体が凝っている。
 遠出は久しぶりだし、いらぬ緊張もあったからだ。
 伸びをする。
 金原もストレッチをしていた。
 類沢だけが、真剣な目でただ家を睨んでいる。
 それから、車に戻り、何かを取り出した。
「行く前に確認しておこうか」
 ボキと指の関節を鳴らしながら類沢が言う。
「……なにを?」
 静かな住宅街にエンジン音が轟き、止まった。
 ガチャ。
 ゆっくり振り返る。
 後ろにいたあの車。
 そこから出てきたのは、どこにでもいる主婦に見えた。
「やはりね」
「ウソだろ」
 二人の反応に俺も気づいた。
「……紅乃木さん」
 アカの母。

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