どこまでも玩具
第10章 晴らされた執念
瑞希達の背中を一瞥し、類沢は男と向き合った。
睨むなという方が無茶な話だ。
男の方も目を逸らさない。
僅かに類沢が見下す形だ。
だが、双方不利はない。
襟梛がそっと家に入ってゆく。
「あなたは行かないのか?」
挑発する口調。
「私はただの付き添いですよ。哲様の無事さえ確認出来れば、仕事は終わりですから」
「残酷な方だ」
半笑いに云う。
そろそろ仮面が剥がれてしまう。
自分から取ってもいいのだが。
「自信がおありですか」
「なんの話だ?」
「これは家宅捜査と同じ。あれほど頑なに閉じていた扉を開いたにしては、随分余裕なご様子で」
「くくく……そう見えるのか」
類沢は眉を潜める。
不気味だ。
この男は掴みがたい。
篠田や雛谷のような、扱いやすい人間ではない。
クッと二階に頭を向ける。
その横顔は、何を企んでいる。
「ぐッッ……」
「瑞希!」
声に反応して振り向く。
今のは、瑞希の悲鳴か。
それから男を見る。
ニヤリと歪んだ顔に、吐き気がした。
「勝手に他人の家を漁るのはどうかと思うが」
男の言葉を黙殺し、二階に上がった。
過ぎ行く瞬間、玄関の隙間にストッパーを落として。
先刻の男の行動からして、内ロックは自動だ。
多分気づかれないだろう。
ガチャン。
後ろから男が入り、玄関を閉めた。
「先生!」
「瑞希?」
金原の足元で瑞希がうずくまっている。
痙攣し、手首を押さえて悶える。
目線が一定しない。
「電気……」
隣のドアを確認する。
あの男。
「う……はぁッッ…ぐ…」
瑞希はすぐに目を閉じ気絶した。
スタンガンレベルだ。
「金原圭吾。瑞希を玄関に連れて行って」
「でもっ」
「連れて行って?」
金原は言葉を我慢し瑞希を抱えた。
階段を下ってゆく途中、男とすれ違った。
「どうかしたか?」
今すぐ蹴落としてやりたい。
首を折りたい。
足を払って突き落としたい。
拳を握り締め、耐える。
だが好戦的な両目は相手の隙ばかり見つけて報告してくる。
膝を崩して、体勢が傾いたところで肩を蹴り飛ばす。
それだけで終わる。
深呼吸をする。
そんなことをしにきたんじゃない。
「この部屋は誰の部屋です?」
「哲だ」
躊躇いもなく言いのけた。
「寝てるかもな」
「合い鍵はお持ちで?」