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どこまでも玩具

第10章 晴らされた執念

 類沢が駆け寄ってくる。
 手にはナイフが握られていた。
 アカのかな。
「大丈夫なの?」
「なんとか……」
 フラついた体を金原が支えた。
「無理すんなバカ」
「いや、今は無理しなきゃ…」
 アカの父が見ている。
 足元のアカもうっすら目を開いた。
「アカのお父さん。いえ、元お父さん。さっきの言葉を直して下さい。アカには、今は学校に友達が沢山います。その中でも、俺と金原は互いに命懸けて守り合える親友なんです」
 金原が力強く頷く。
「さっきから好き勝手にアカをモノみたいに云いますけど、本当にアカのこと想っているなら殺せますか? 俺はそうは思わないです。そんなの愛じゃない、ただの狂信、いや妄信です。そんな愛、親から貰いたくもない」
 部屋には俺の声だけが響いている。
「それに……それはなんです?」
 アカの首と足に絡みつく重たい鉄を指差す。
「そんなもの付けなきゃ息子を留めておけないなんて、絶対におかしい。あなたがやってることは、ただ自己満足するだけの犯罪です! 犯罪だよっ!」
 段々と熱が入った。
 ハァハァ、と息を整える。
 襟梛が目を見開いて俺を見ている。
 アカの母親。
 あんたも、何か云えよ。
 そう思えてくる。

「ありがと、みぃずき」

 ドッ。
 何かが刺さる音が木霊した。
 抱えられたアカの手が、父親の胸元に掲げられている。
 その手には、ナイフ。
「おれは、あんたを許さない」
 襟梛が悲鳴を上げた。


 アカが手を下ろす。
 全員が息を呑んだ。
 カラン。
 同時に、拍子抜けする音と共に、ナイフが床に跳ねた。
 血は、ついていない。
 アカが茫然とする父を押し、立ち上がる。
 それから落ちたナイフを拾った。
 刃にもう一方の掌を当て、勢い良く刺す。
 だが、手が切れることはなかった。
 ただナイフが柄の中に潜り込んだだけで。
「安心して。母さん」
 アカが力無く笑む。
「オモチャだから」
 襟梛が崩れた。
 床に尻をついて、呆気にとられている。
 たった今、息子が父を亡き者にしたと思ったのだから、そうだろう。
 俺も脱力して、金原にもたれた。
「なんで……」
「なんで? 決まってるじゃん。父さん?」
 アカは首輪を掴んで、静かに微笑んだ。

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