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どこまでも玩具

第11章 立たされた境地

 彼女。
 自分で考えておいてモヤモヤする。
 過去に何人いたんだろう。
 この容姿だ。
 二桁でもおかしくはない。
「クリスマスまで……」
 類沢がワインを揺らす。
 香りが此方まで漂ってくるようだ。
「ここにいない?」
「えっ」
 俺はスプーンを落としてしまった。
 聞き間違いかと思った。
「気になることがあるんだ」
「……え?」
 期待は不安に変わった。

「西雅樹、ですか?」
「そうだね」
 俺は紅茶を飲んで、気を落ち着かせる。
 言った方が良いかもしれない。
 そしたら、決断出来るだろう。
「俺、彼に裁判に一緒に出ないかって誘われたんです」
 類沢の手が止まる。
 ゆっくりとグラスから離れ、机に触れる。
「……何も話してはいないんですけど。あの時、類沢先生と一緒だったじゃないですか。それで、先生に脅されてるんじゃないかって」
「雅樹がそう言ったの?」
「はい」
 類沢の眉に皺が寄る。
 歯を噛み締めるように表情が強張って。
 背筋が勝手に伸びるのを感じた。
 今の類沢の前で、力を抜けない。
「雅樹が……そっか。意外に早かった……そうか」
 独り言のように呟き、類沢はトントンと指で机を叩いた。
「先生?」
 耐えかねて声をかける。
「先生は、西雅樹の学校にいたんですか?」
 音が止む。
「そうだよ。雅樹は生徒だった」
 二人の関係を尋ねたい。
 その一歩が踏み出せない。
 なんて答えが来るかわからない。
「雅樹は生徒だった」
 類沢は確認するように再度呟いた。
 いや、言い聞かせるように。
 まるで、西雅樹という人間をそれで括ってしまいたいと云うように。
「返事はしたの?」
 話題を逸らす。
「……いえ。連絡先も知らないし」
「そう」
 短い言葉から感情は読み取れない。

 眠れない。
 さっきの話し合いのせいかな。
 ベッドに仰向けで、天井を凝視したまま眠れずにいた。
 類沢は裁判の資料を揃えるからとリビングに行った。
 西雅樹。
 その名前に拒否反応が出てしまう。
 俺は、彼のことをなんにも知らないのに。
 枕元から携帯を取り出す。
 その光る画面を見つめる。
 意味もなくネットを開いた。
 沢山の人の意見の大海。
―本日発売の書籍一覧を―
―あのアイドルも成功した―
―明日の教科なんだっけ―
―只今入った情報では―
 電子の声が、眠りを誘う。

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