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どこまでも玩具

第12章 晒された命


 黒く、黒く。
 白い大理石を染めていく。
「俺を……俺を過去にしないでください」
 焦げた香りが鼻につく。
「宮内と俺は、何が違うんですか」
 類沢は蒼い瞳で雅樹を見つめる。
「どうしたらっ……宮内に勝てるんですか。先生の今になれるんですか……どうしたら! 先生に愛してもらえるんですか!」
 懸命に息を吸い、思いを吐き出す。
 そうだ。
 西雅樹は、そういう人間だった。
「わからない」
「……え?」
「僕も瑞希に何故惹かれているかわからない」
「そ……そんなの」
「なら雅樹は、どうして僕にこだわるの?」
「愛して欲しいからですっ!」
 それ以外にありますか。
 自信に満ちた答え。
「愛して欲しい、か。こんな人間のどこにそう思えるの?」
 雅樹が首を振る。
「先生……いやです。こんな先生、見たことありません。なんで……不安な顔なんかしてるんですか」
「なんでかな」
「俺は……俺は、何にも染まらない、強い先生がっ……ああああ! ムカついて仕方がないですっ! なんで先生変わるんですか。宮内にはどうして先生を変えられたんですか!」
「不安なんだ。失いたくないものを失うことが」
 雅樹が唇を震わせて、激しく首を振る。
 類沢がおもむろに手を伸ばし、雅樹の腕を掴む。
 逃れようと振るが、力の差は歴然だ。
「先生……どうか、殺してくれませんか」
 涙でボロボロになった顔。
「それは出来ない」
 自分の乾いた頬は、生気が無いようにすら思えてくる。
「雅樹」
「聞きたくないっ!」
 ガンッ。
 頬に衝撃が走る。
 雅樹が右手を突き出したまま、固まる。
 そっと殴られた場所に触れる。
「あ……」
 熱い。
 痛みがジンジンと脳に渡る。
 なのに、痛いより先に現れたのは、笑いだった。
 背中を揺らして笑う類沢を、雅樹は呆然と見つめる。
「はは……ああ、ごめん。急に思い出しちゃってさ。雅樹が喧嘩を申し込んで来たときのことを」
「な……なんですか。それ」
「いや。強くなったなぁって」
 今更痛みに眉をしかめる。
 口も切ったみたいだ。
 指先で血を拭う。

―助けて……先生―

「なんなんですかぁ……」

―西……雅樹を、助け……て―

 泣く前に頭を抱き寄せる。
「失いたくないのは、雅樹も同じだから」
「え」
「殺せなんて言わないでくれる?」
「な……」

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