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どこまでも玩具

第12章 晒された命


 彼女は寂しく口の端を持ち上げ、俺の額に手を当てた。
 冷たい手が、気持ちいい。
 だが、彼女はすぐに手を離した。
 そして、口元を覆い泣き出した。
 静かに。
「えっ。どうしたの」
 痛みが消え、身を起こす。
「ふ……ふふ。やっと瑞希ちゃんに触れたのにね。触りたくなかったなんて、わがままだよね」
「なに、言って」
 涙に濡れた眼は、酷く美しかった。
 やっぱり、俺は知っている。
 なのに、名前が出てこない。
 呼びたいのに。
 出てこない。
「ごめんね、瑞希ちゃん」
 彼女は謝って、それから俺を抱き締めた。
 優しく。
 そっと。
 でも、離れぬように。
 俺も手を背中に回す。
「ごめんねぇっ」
 泣き続ける彼女の声に、俺も涙が流れる。
「なんで、謝るんだよ」

―瑞希ちゃん、大好き―

 ザクッ。
「がぁああッッ……あ、く」
 彼女の体が弾かれたように後ろに下がる。
 また痛みが蘇った。
 心臓を取り出したいくらい、胸が痛む。
「瑞希ちゃん」
「大丈夫だ……河南」
 彼女が目を見開き、それからわぁっと声を上げて泣く。
 そう。
 思い出した。
 ずっと支えてくれた少女。
 河南。
 そして、これも。
 西河南。
 会ったことのない、双子の兄がいる。
 俺の大切な幼なじみ。
「瑞希ちゃん……右を見て」
 息も絶え絶えに、顔を起こす。
 右には白い道が続いていた。
 砂場から伸びる、一本道。
「向こうに行けば、いいんだよ」
「河南……」
「お兄ちゃんが、ごめんね」
「いいんだよ……あッッ……ぐ……河南も……一緒に」
 痛みが強くなる。
 手を伸ばしても、河南に届かない。
 砂が舞う。
「ごめんね」
「河南っ!」
 彼女の制服は、隣町の学校のもの。

 学年ごとに異なるバッヂの色は、一年生を示していた。

 幼なじみ。
 三年生のはずなのに。

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