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どこまでも玩具

第4章 放たれた憎悪

 食い下がる彼に仁野は叫び返した。
「あの保健教師が同性愛者だって言ってんの!」
 空気が止まる。
 何もかもが固まっている。
 金原は目を見開いたまま。
 俺は靴を取り出したまま。
 周りの生徒は怪訝そうに二人を見つめたままに。
 頭の中はグツグツ新たな疑念をごちゃ混ぜに煮詰めてる。
 まさか。

 ……仁野にバラしやがった?

 いや、すぐに俺は否定する。
 だったら金原に対しても何か云われたはずだ。
 コレクションのように扱う類沢なら、自分の手駒の数など喜んで喋るだろうから。
「ほら! ほら、嗤いなさいよ!……嘘つきだって……言えばいい…」
 金原は呆然として仁野を見下ろす。
 それからそっと彼女の手を握る。
 肩を震わせる仁野に何か囁くと、二人はこっちに向かってきた。
 何も知らない素振りで立ち去ろうとしたが、金原の視線が突き刺さる。
「瑞希、二人きりで話すから」
 帰れ。
 耳を閉じて。
 そういうことだ。
 俺は応えずに玄関を出た。
 つまり、金原は紅乃木よりも元カノが大事ってことだ。
 どこかで期待していた。
 否定するんじゃないかって。
 何言ってんだよ。
 有紗って。
 否定……すんじゃないかって。
 バラす気かよ。
 オレは信じるよって。
 自分のことは言えないだろうな。
 実は瑞希……が……って
 俺は校門に寄りかかった。
 何も、何も今日じゃなくたって。
 携帯を見る。
 着信一件。
 誰からかなんて数パターン。
 紅乃木か。
 母親か。
 類沢、か。
『話がある』
「……アカ」
 俺はすぐに指定された場所に向かった。
 最も、それは別れたあの公園だったのだが。
「アカ!」
 ベンチの背もたれに座っている紅乃木は、あの日から変わったのかよくわからない。
 クルリとこちらに首を回す。
「久しぶり。みーずーき」
 明るい。
 不自然なくらい明るい紅乃木。
 制服ではなく、真っ黒のジャケットと紫のパンツ。
 朱髪が際立つ色合い。
「アカ……何日休んでんだよ!」
「二日くらい?」
 やっぱり明るい。
 なんだ。
 この嫌な感じ。

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