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あの店に彼がいるそうです

第10章 最悪の褒め言葉です


 類沢が悠と話があると言って席を外してから俺は拓に問いかけた。
「これからどうするんだ」
「これから……オレ馬鹿だから医者の話よくわかんなかったけどさ。忍は亜急性型とか言うやつなんだろ、手術しないと八割死ぬって……いう。だから肝移植は絶対やらせる。ドナーがいねえならオレの肝臓切ってでも」
「けどその費用は……っ」
 言いながら自分が酷く冷たい人間に感じてしまった。
 金の話なんて。
 借金がなくてもやりたくない。
 でも必要なときもある。
「国内治療なら難病登録されてるから公費負担だって類沢さんは言ってたけど……」
 医療制度に詳しくない俺らは確証なんて何一つなかった。
 まだ俺って二十歳なんだ。
 そのことが歯痒くて仕方なかった。
「国内で肝移植とかやってんのか……」
「どこでやってるかって話もあるよな。オレは海外にだって頼むつもりだけど」
 頭のなかに街頭で募金を呼び掛けていた奇病の子を持つという若い母親の姿が突然現れた。
 ご協力お願いします。
 お願いします。
 この子を救いたいんです。
 三千万必要です。
 ご協力お願いします。
 海外治療。
 国内との違いってなんだ。
 まだ日本は導入どうこう問題あるのか。
 ニュース見てれば良かった。
 医学部の知り合いにメールするか。
 このまま病院に任せて良いのか。
 悠さんに?
 類沢さんに?
 今すぐにでも治療が必要なのに?
 頭が割れそうだ。
 鵜亥。
 ぴたりとその名前が瞼の裏に止まった。
「瑞希?」
 拓の視線にも気づかなかった。

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