あの店に彼がいるそうです
第12章 どんな手でも使いますよ
その行為がどのくらい行われていたかなんて俺にはわからない。
身体が解放された瞬間だって覚えてない。
気づいたら、中に異物感だけが残って、ベッドに横たわっていた。
意識はあるのに、指一本動かそうとすら思えない。
瞬きさえも、緩慢に。
痛みは遠くどこかの他人事のように鈍い。
やっとその存在を意識しようとしたとき、汐野の声がした。
「大分待たせとるけど、客人はどうするん?」
「クラブの幹部達か」
「三人小会議室におるで」
コツコツ。
革靴の音が聞こえる。
あと、煙草の臭い。
少しずつ五感が感覚を取り戻していくように、周りの状況をキャッチし始める。
「そう、か」
呟いた鵜亥は扉のすぐそばの鏡の前で上着のボタンを留めている。
汐野はベッドの脇の椅子に座って白い煙を味わっている。
ということは、それほど時間は経ってないのだろうか。
冷静に分析する脳は、麻痺しているのかもしれない。
痛覚は戻って来るなよ……
そう祈りつつ目線を色々と動かしてみる。
「類沢の方はどうなってる」
「あの豚?」
「口を慎め……」
「あちらさんは、他のホストが助けに来てな。まあ、結局全員捕まえたけど、そのあと二人きりでどっか行きよった」
「お持ち帰り、か」
「なあんかそんな空気でもあらへんかったけど」
「どういうことだ?」
なんだろう。
この二人の空気は、類沢さんと篠田チーフを彷彿させる。
二人きりになった途端に、互いの信頼が浮き出て口調もほぐれて。
しかし、内容が気になって仕方がない。
耳を澄ませて集中する。
「秋倉はんの狙いって本当に類沢やったんかなあって」
はあっと大きめの溜息が聞こえる。
多分鵜亥だ。
「目的でもない男一人に四千万も出す気狂いがいるのか。東京には」
「安いもんやろ」
「あの男は確かにこの街では大きな組織を持っていたが、一か月前に支社をいくつかなくしている。資金からいってはした金とまでは言わないだろう」
そこで汐野が立ち上がる。
姿は見えないが、影が俺の視界にまで入ってきた。
「そこやね」
「なにがだ」
「あのぶ……秋倉はんは、十何年もあの類沢って男を欲しがってたんやろ。妾にしたいかわからんけど。なんでその間、単純に拉致ろうとか財産費やしてシエラ買収とかに至らんかったんやろ……おかしいと思わん?」