あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました
目で辺りを見渡す。
馴染みのある天井に、机、棚。
「ここ……」
俺が寝ているベッドに腰かけた篠田が疲れた顔で頷いた。
「ああ。類沢の部屋だ」
「なんで……」
「ここは元々俺の家だって話はしなかったか? 類沢は鍵も換えてないんだ。だからまあ、留守を借りさせてもらっている」
「なんで……」
「あ? ああ、あのあとのことなら気にしなくていい。鵜亥がお前の前に現れることはケイが誓ってないと言っていた。知らないだろうが……巧と戒、あと恵介が手伝ってくれた。まあなりゆきは落ち着いたら話してやる」
ちがう。
違う。
俺が訊きたいのはそんなんじゃない。
鵜亥や汐野の元から救われた。
でもじゃあ、なんでそこにいるべき、ここにいるべき人間がいないんだ。
「なんで」
唇が震えたが、はっきりと言えた。
「……わかってる。何が言いたいかはわかってる」
類沢さんの部屋。
そこにチーフと二人きり。
違和感が沸かないわけがない。
俺の部屋に羽生兄弟が住んでたときとはまた違う。
いるはずないものがいるときよりも、いるはずのものがいないときの方が、人って不安を感じるんだな。
言い知れない不安を。
「類沢はなんでいないのか、だろ」
篠田が溜め息を吐きながら立ち上がって、机に近づいた。
その表面を指で撫でる。
「……いなくなったんだ」
単純に。
まるで答えてないかのような。
曖昧でいてはっきりした矛盾の塊みたいな答えに眉を潜める。
ギリ。
木を爪が引っ掻く。
怒りを込めて。
たった数センチ、指が動いただけなのに、俺は鳥肌を感じて言葉を失った。
「いなくなったんだ、あいつは」
確かめるように。
世界に告げるように。
裏切りを責めるように。
「……どこに」
「はっ、どこだろうなあ? 秋倉に身を差し出してまでお前を救おうとしていたあいつがあっさりと逃げて姿を眩ませた」
逃げて。
その表現はあまりにも類沢に似合わない。
篠田は机にもたれかかってこちらを向いた。
その視線に合わせるように身を起こして篠田をまっすぐに見る。
何かを言いかけ、舌鼓を打ってやれやれと首を振ると、篠田はおかしそうに肩を震わせた。
浮いては消える感情の連続についていけなくなる。
「チーフ……」
類沢さんと忍の病院に行ったのが、夢のように遠い。
一体何が……