あの店に彼がいるそうです
第4章 超絶マッハでヤバい状況です
蜜壷……
俺は手に息をかけながらインテイスを眺める。
類沢さん、ここ本当にヤバい場所なんじゃないんですか。
「裏口担当、みぃずき見っけ」
息が止まるほど驚いた。
声の主は黒い手袋から覗く親指を舐めて笑う。
反対の手には黒い財布。
いや、ナイフケースだ。
目立たぬよう、気づかれぬよう。
「紅乃木さん……」
「類沢が認めた新人ねー。さっき雛谷にも声かけられてたでしょ」
「見てたんですか」
「まあね。あいつ嫌い」
子どもみたいに言うが、目つきは冷たかった。
動きやすいようにか、薄い生地のジャンパーにジーンズの紅乃木は、店とは違う人物に見えた。
むしろ今の方が彼らしいと感じる。
ワインよりナイフが似合う。
「計画は覚えた?」
「一応」
ケースを撫でる。
「類沢もバカだよね。話し合いで済むわけないのに。だから裏口はおれになったんだけど」
「暴力は避けられないって訳ですか?」
紅乃木は小さく笑うと、素早く右手を突き出して俺の首を掴んだ。
一瞬だったので、よける暇もなかった。
キツく首が締まる。
「生意気」
パッと手を離すと、路地の壁にもたれる。
俺は咳き込んで、しゃがんだ。
こ……殺されるかと思った。
「ホストになったからにはね、鍛えた方がいいよ、腕」
「……え?」
紅乃木は手を開いたり閉じたりしている。
革を伸ばしているのだろうか。
ハッと首に手を当てる。
手袋の範囲だけ、跡が残っている。
サアッと青ざめた。
「その、手袋」
「ああ。うん、そうだよ。即効性を高めるため。二秒で落とせるから」
殺し屋なのか。
そう疑ってしまう。
しかし、裏口担当は俺と紅乃木の二人だけだ。
万が一、店側の人間が逃げ出した時に退路を断つための配置。
さらには道路に車担当も待機している。
逃がさないつもり満々だ。
俺は首をさすりながら立ち上がる。
「喧嘩したことないね」
「殴り合いとかは……」
「今日はぶっつけ本番で殺し合いかもよ?」
「類沢さんがそうはさせませんよ」
「なにを知ってんの?」
紅乃木が可笑しそうに一蹴する。
言い返せなくなる。
確かに、彼が腕を振るうところを見たことがないだけかもしれない。
「あの人と一緒に住んでんだっけ。気をつけてね。逆らったらどうなるかわかんないよ?」
俺は手に息をかけながらインテイスを眺める。
類沢さん、ここ本当にヤバい場所なんじゃないんですか。
「裏口担当、みぃずき見っけ」
息が止まるほど驚いた。
声の主は黒い手袋から覗く親指を舐めて笑う。
反対の手には黒い財布。
いや、ナイフケースだ。
目立たぬよう、気づかれぬよう。
「紅乃木さん……」
「類沢が認めた新人ねー。さっき雛谷にも声かけられてたでしょ」
「見てたんですか」
「まあね。あいつ嫌い」
子どもみたいに言うが、目つきは冷たかった。
動きやすいようにか、薄い生地のジャンパーにジーンズの紅乃木は、店とは違う人物に見えた。
むしろ今の方が彼らしいと感じる。
ワインよりナイフが似合う。
「計画は覚えた?」
「一応」
ケースを撫でる。
「類沢もバカだよね。話し合いで済むわけないのに。だから裏口はおれになったんだけど」
「暴力は避けられないって訳ですか?」
紅乃木は小さく笑うと、素早く右手を突き出して俺の首を掴んだ。
一瞬だったので、よける暇もなかった。
キツく首が締まる。
「生意気」
パッと手を離すと、路地の壁にもたれる。
俺は咳き込んで、しゃがんだ。
こ……殺されるかと思った。
「ホストになったからにはね、鍛えた方がいいよ、腕」
「……え?」
紅乃木は手を開いたり閉じたりしている。
革を伸ばしているのだろうか。
ハッと首に手を当てる。
手袋の範囲だけ、跡が残っている。
サアッと青ざめた。
「その、手袋」
「ああ。うん、そうだよ。即効性を高めるため。二秒で落とせるから」
殺し屋なのか。
そう疑ってしまう。
しかし、裏口担当は俺と紅乃木の二人だけだ。
万が一、店側の人間が逃げ出した時に退路を断つための配置。
さらには道路に車担当も待機している。
逃がさないつもり満々だ。
俺は首をさすりながら立ち上がる。
「喧嘩したことないね」
「殴り合いとかは……」
「今日はぶっつけ本番で殺し合いかもよ?」
「類沢さんがそうはさせませんよ」
「なにを知ってんの?」
紅乃木が可笑しそうに一蹴する。
言い返せなくなる。
確かに、彼が腕を振るうところを見たことがないだけかもしれない。
「あの人と一緒に住んでんだっけ。気をつけてね。逆らったらどうなるかわかんないよ?」