あの店に彼がいるそうです
第5章 殺す勇気もない癖に
冷たい床に投げられる。
少し水溜まりに脚が浸かった。
急いで引き寄せる。
目隠しをされているのでわからないが、多分廃倉庫だろう。
コンクリートに機械の臭い。
トタン屋根が風に揺れる音。
縛られた手首に血が通わず、そろそろ感覚が消えつつある。
「連れてきたか」
秋倉の声じゃない。
ここに来るまで、ずっと黒幕を想像していた。
類沢に恨みを持つホスト。
秋倉の連携組織。
もしくはただの誘拐犯。
いや、それはないか。
若い新入りか、と尋ねてきたのだから。
バックに類沢がいるのを知っていての犯行だ。
犯行。
まだ確定はしないけど。
ガシッと髪を掴まれ、顔を持ち上げられた。
顎を高く上げて、首がひきつる。
そんなことはお構いなしに、手の主はグイグイ引く。
「胸に傷痕……喧嘩慣れはしてないな」
肩を揉むように強く絞られる。
「筋肉もない。容姿だけで入ったBクラスか。雅さんもなんでこんな奴を入れたんだろ」
低く澄んだ声。
若い。
ひょっとしたら同い年かもな。
アカを思い出す。
ホストは年齢なんて関係ない。
「名前は?」
俺は一瞬躊躇った。
しかし、横から腹を蹴られ衝撃に抵抗を忘れた。
髪は掴まれたままなので、頭皮が千切れるような痛みが貫く。
ズキズキと長く残る。
「……瑞希」
「シエラは何年目だ」
「二週間?」
ガン。
手を離されたせいで、床に頭を強打した。
もう少し人間扱い出来ないのか。
世界が反転している。
気を失いそうだ。
「信じらんねーな」
他の男達はどこに行ったのだろう。
気配はこの男しかない。
二人だけ?
一体目的はなんだ。
「なんで雅さんに拾われた?」
「……借金返さなきゃ、で」
「借金?」
あれ。
なんだろう。
どこかで聞いた気がする。
「いくらだ」
「か……んけい、ないだろ」
沈黙が降りる。
怖いくらい寒気がする。
「あー。関係ないかもな。だって俺もうシエラのホストじゃないし」
俯いたまま、眉にシワを寄せる。
てことは、前は……
「雅さんて弱点ないだろ? 俺がいた時からずっとそうだった。なのに最近若い新入りにうつつ抜かしてるって言うらしいじゃん」
「だったら……なに?」
男がクスっと笑う。
「お前、自分が雅さんの弱点だって自覚してる?」
少し水溜まりに脚が浸かった。
急いで引き寄せる。
目隠しをされているのでわからないが、多分廃倉庫だろう。
コンクリートに機械の臭い。
トタン屋根が風に揺れる音。
縛られた手首に血が通わず、そろそろ感覚が消えつつある。
「連れてきたか」
秋倉の声じゃない。
ここに来るまで、ずっと黒幕を想像していた。
類沢に恨みを持つホスト。
秋倉の連携組織。
もしくはただの誘拐犯。
いや、それはないか。
若い新入りか、と尋ねてきたのだから。
バックに類沢がいるのを知っていての犯行だ。
犯行。
まだ確定はしないけど。
ガシッと髪を掴まれ、顔を持ち上げられた。
顎を高く上げて、首がひきつる。
そんなことはお構いなしに、手の主はグイグイ引く。
「胸に傷痕……喧嘩慣れはしてないな」
肩を揉むように強く絞られる。
「筋肉もない。容姿だけで入ったBクラスか。雅さんもなんでこんな奴を入れたんだろ」
低く澄んだ声。
若い。
ひょっとしたら同い年かもな。
アカを思い出す。
ホストは年齢なんて関係ない。
「名前は?」
俺は一瞬躊躇った。
しかし、横から腹を蹴られ衝撃に抵抗を忘れた。
髪は掴まれたままなので、頭皮が千切れるような痛みが貫く。
ズキズキと長く残る。
「……瑞希」
「シエラは何年目だ」
「二週間?」
ガン。
手を離されたせいで、床に頭を強打した。
もう少し人間扱い出来ないのか。
世界が反転している。
気を失いそうだ。
「信じらんねーな」
他の男達はどこに行ったのだろう。
気配はこの男しかない。
二人だけ?
一体目的はなんだ。
「なんで雅さんに拾われた?」
「……借金返さなきゃ、で」
「借金?」
あれ。
なんだろう。
どこかで聞いた気がする。
「いくらだ」
「か……んけい、ないだろ」
沈黙が降りる。
怖いくらい寒気がする。
「あー。関係ないかもな。だって俺もうシエラのホストじゃないし」
俯いたまま、眉にシワを寄せる。
てことは、前は……
「雅さんて弱点ないだろ? 俺がいた時からずっとそうだった。なのに最近若い新入りにうつつ抜かしてるって言うらしいじゃん」
「だったら……なに?」
男がクスっと笑う。
「お前、自分が雅さんの弱点だって自覚してる?」