あの店に彼がいるそうです
第6章 随分未熟だったみたい
「仕事は休まないでよ」
既に太陽は真上に来ていた。
類沢はシエラのホストを解散させて、七人と向き合った。
スフィンクスの松園親子。
シャドウの空牙に吟。
キャッスルの雛谷と如月。
「今日はありがとう」
「気になさらないでください。街の風紀を乱す輩は共通の敵ですから」
「またいつでも呼べ」
「何の為の組織だと思っとる」
「暴れさせてくれるならすぐ駆けつけるからね~」
ふっと頬が緩む。
篠田が咳払いをした。
「今回はともかくだ、ルールは心得ておけよ。ホストは……」
「暴力、薬は自ら手を出すな」
言葉を引き継いだ類沢を睨む。
「店の看板という自覚を持て」
「まあまあまあ。最良の選択だったではありませんか。瑞希氏も救出出来たことですし」
我円はつり上がった眼で類沢の車を見つめる。
そこにいる瑞希を見るように。
「類沢の体はともかく瑞希ちゃんは大丈夫なのかよ」
「空牙、その瑞希ちゃんは辞めてくれないかな……」
関係ない雛谷が噴き出した。
最後に残った篠田が煙草を取り出す。
ライターを手で覆い、火を点ける。
「あー、鳥肌が治まらねぇな」
白い息を吐きながら言う。
「ナニが」
類沢も煙草をくわえ、篠田のものに先端を上手くくっつけて火を貰う。
「お前が死ぬんじゃないかって」
遠くでバイクの音がする。
多分、シャドウの二人が競っているんだろう。
「僕もよぎったよ」
青空が広がっている。
雲一つない空に煙草の煙が絵の具のように漂う。
「こんな風に死んじゃうんだ……って」
「何を思った?」
車にもたれながら二人は空を見上げた。
暖かい陽射しがさっきまでの現実を霞ませてしまう。
「そうだね……昔を思い出した」
「二年前か」
「もっと前」
パチンと煙草を弾かせる。
地面に転がった灰は、コンクリートの上、まるで白のように存在を主張した。
「ホストになる前か」
類沢は無言で二本目に火をかざした。
「ホストにならなかったら、何になってたと思う?」
「僕が?」
「そうだ」
面白いこと訊くね、そう軽く笑う。
「想像つかない。進路なんて考える場所も無かったし。でも、そうだなぁ……」
少しの間。
「こうしてのんびり煙草吸えるならなんでもいいかな」
「単純だな」
「単純だよ、そんなもん」