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あの店に彼がいるそうです

第6章 随分未熟だったみたい

 外に出て、眩しさに眼を細める。
 慣れると目の前に車が現れた。
 窓が降り、運転席から類沢が見上げる。
 篠田はドアを乱暴に開けた。
「傷つけたらクビだからな」
「この車はリシャーレ四ダースくらいかな」
 エンジンが響く。
「車だけは詳しいな」
「ワインと紅茶もね」
 類沢は愉しそうにハンドルを切った。

 沈黙ってのはどちらが作っても責任をとらされるのは一方だ。
 いつでも俺だ。
「だから、その……言えない」
「昨日どこでナニしてたかも云えないの?」
「昨日以外なら答えるよ」
「じゃあ一昨日」
 俺は頭痛に病まされる。
「それもなしで」
 すでに珈琲もフローズンも空になっている。
 この問答はもうすぐ一時間に達するだろう。
 だが、譲れない。
 言うわけにはいかない。
 喧嘩の方がましだ。
「そう。瑞希がその態度を貫くならわかれよ?」
 前言撤回。
 これは非常にまずい事態へと発展中。
「なんでそうなるんだよっ」
「彼氏がホストになってナニしてるのか教えてくれなかったら耐えられないに決まってるでしょ」
「わかってくれよ河南……これだけは言えないんだ。云ったら、殺される」
 河南はグロスの落ちた唇を指先でつーっとなぞる。
「誰に?」
 君に。
 ギキッ。
 窓の外で高級そうな外車が止まる。
 見覚えのある顔に目線がいく。
 河南は携帯に目を落としていた。
 俺の衝撃も知らずに。
「な……んで」
 背の高い二人組が降りてくる。
 サングラスをかけて。
 回り中を惹き付けて。
「たまには喫茶店もいいんじゃない」
「好きにしろ」
 小さいながらも外から声が伝わる。
 絶対に聞き間違えることがあるはずがない声が。
 チリン。
「いらっしゃいませー、二名様でしょうか」
「喫煙で」
 奥に行こうとしていた彼が立ち止まり、サングラスの中の目が俺を見つける。
 蒼いそれに捕らわれた瞬間、嵐の予感がした。

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