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止まない雨はない

第8章 Fallen Angel

タカシの店、BARルーカスが三周年と聞き、ルカは我が事のように喜んだ。

「…オレがドイツから帰って一年半ですから…タカシさんもすっかりマスターなんですね」

「なぁにその笑い。BARのマスターは似合ってない?」

タカシはわざと機嫌を悪く装い、ベッドから突然飛び起きる。

「そーゆー、意地悪サンはオレが食べちゃう!」

おどけながら、タカシはルカに抱きつき、肌の感触と自分だけが感じることの出来る彼の匂いに満たされる。
抱きしめていないと、怖くなる。
人を愛すると、こんなに弱くなってしまうものなんだろうか、とタカシはいつも思う。

「あの…オレ、是非お祝いしたいのでタカシさん、何か欲しいものとかないですか?」

タカシに抱きしめられながら、ルカは嬉しそうに尋ねてくる。

「欲しいもの?それは山口瑠歌ってひとを1名…」

「ああ、もう!真面目に答えてくださいよ」

「そんなこと言ったって…今は幸せだし、何も欲しいものなんて、ないし」

タカシは困ったように眉を下げる。

「んー、強いて言えば、NYにいた時みたいにさ、ピアノに没頭できる場所とかあったらいいな、とは思うけど」

この界隈じゃ無理でしょう?

現実的に笑うタカシに、ルカだけは大真面目に頷いた。

「はい、それ、参考にさせて頂きますね」

「…ルカは気持ちだけで十分なんだから」

ストレートに受け止めるルカに対して、タカシはかえって慌てた。

「ふふ、オレ、タカシさんに喜ばれるようなプレゼント、頑張って叶えますからね」





*****************



“山口クリニック”の診療時間を終えた後、ルカはとある場所へと向かっていた。


向かった先は、この界隈から少し離れた場所にある、雑居ビルのなかのスタジオである。

「…たしか、この辺りだったと思うんだが」

ルカは携帯を取り出し、目的地となるスタジオに架電する。


“………へーい、こちらスタジオ・ブルー”

携帯のスピーカーから聞こえてきたのは、ルカにとっては旧知の仲である、大学時代の先輩、福士 良の声であった。

「お久しぶりです、福士先輩。オレです、ルカです!」

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