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Kiss

第6章 dear

 世の中には厄介なものが沢山ある。

 強調しておこう。
 厄介なものが沢山ある。
 その一つは紛れもない。
 ギャップだ。
 ギャップ萌え?
 信じられない趣向だ、そんなもの。
 なぜかって。
 実際ギャップを見せつけられたなら、それまでの平穏なんて一気に崩れ去る。
「あぁあ……今日もボクの龍は宇宙的にメロメロでマジで死んじゃう二秒前の破壊力で世界を虜にしちゃうんだから~」
 例えばコイツ。
「亜廉先輩……その訳わかんねー寝言はいいから出てってくれませんかね」
「今朝はツンツンモードなんだね。いいとも。そんな顔もたまらなく可愛いから。いーい? 可愛いか」
 バタン。
 勢いよく扉を閉めて奴を追い出す。
 信じられないことその2だが、彼は二つ上の二十歳の大学生だ。
 性格は大体わかっただろうが、毎日あのテンションを貫いている。
 はじめのうちは不気味だったが。

 もちろん、二人暮らしという大きすぎる負担はたまに厭になる。
 春の自分はもう少しましな選択をするべきだった。
 今となっては手遅れだけど。
 四年契約のルームシェア。
 月一万円。
 こんな都会の大学ではありえない安さで、時間も金もなかった俺は飛び付いてしまった。
 管理人も優しくて、住民はみんな良い奴だと教えてくれた。
「龍ぅ。今日は牛バラ定食が三百円で食べれる週に一度のラッキーデイだよ? 急いでハニー」
 ここに良い奴のくくりでは片付けられない人物が一人。

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