はい。もしもし、こちら、夫婦円満本舗です。
第6章 『真奈美の嫉妬とオムライスの思い出』
オムライス……には、特別な思い出があった。
僕の両親が離婚したのは…
僕が10歳の歳の頃。
セミが鳴く…
小学4年の夏休み…、8月の暑い日の事。
その日は…友達が…誘いに来てくれて、
自転車で行ける、
隣町の市民プールに遊びに行っていて。
家に帰ると、し――んと家の中は静まり返ってた。
ただいまと…声を台所に向かって掛けても、
いつもなら戻って来る返事が返って来なくて。
おかしいなって思いながら、そのまま
台所の方に向かうと。
ダイニングのテーブルの上には、お袋が
自分の所だけ記入した離婚届が置いてあった。
部屋の電気は真っ暗で、家の中に
お袋が居た痕跡が…、綺麗に無くなって居た。
まるで自分が…、最初から…
この家に…居なかったかのように…綺麗に。
お袋は…親父に愛想をつかして、
僕を置いて…出て行ったのだと…
その時に…、僕は…気が付いた。
探偵なんて、仕事をしてるから
元から親父は毎日家に帰って来なかった。
それがいつから…なんて、僕の記憶にもないが
僕が…物心ついた頃には、
”親父はあまり帰って来ない”
それが当たり前だった。
当たり前だったから、いつもそうだったから。
それが…、おかしいとも思わなかったし。
それが、お袋を…じわじわと…追い詰めてるって
その時の僕は…、分かりもしなかった。