テキストサイズ

パートタイムラブ

第1章 パートタイムラブ

 ⑥

「せ、責任を…責任取ってよ…」

「え?、責任て?…」

 その言葉は無意識に出たのだ…

 ただ、わたしは…

 なぜか…
 
 この男と…

 まだ離れたくなかったのだ…


 すると…

「あ、あのぉ…」

 映画館のエントランスホールに出てから、男は問うてきた…

 その目は、反省と、焦燥感と、後悔と…
 そして戸惑いの色を表していた。


「ゆ、許しては…もらえませんか?」
 すると男はそう言ってきたのだ。

「え…」
 そしてこの時わたしは、その男の言葉でハッと我に還ったのである。

 え、いや違う…


「ほ、本当にすいませんでした…」

 いや違う、わたしは責めている訳じゃない…


「あ、い、いや、あ、いえ…」

 今度はわたしがしどろもどろになってしまう…

「だって…」

 すると男には…
 戸惑いの表情が強く現れてきていた。

 そして反面わたしは秘かに、さっきまでの脚を触られていた時の昂ぶりが蘇っていたのだ…

 いや、この昂ぶりは…
 
「あ、ぁ、そんなに謝らないでください…」

「え?…」
 今度は男が戸惑いの声を上げてくる。


「わ、わたしは、べ、別に…そ、そのぉ…お、怒っている…わけじゃ…」

 この昂ぶりは…

 欲情…

「え、だ、だって、アナタは…責任をって?…」

「あ…は、はい、だから…」

 たから、その責任て…

 それは…

 この…

 欲情の…

 わたしはそんな想いを目に込めて、顔を上げ、男を見つめた。

「え、あ、あっ…」

 多分、わたしのその目は…

 濡れて…

 淫靡な…

 誰にでも分かる様な…

 淫らな…

 欲情の輝きを…

 放っていたのだと思う…

「え、あ、ま、まさか…」

 そしてそんなわたしの淫らな欲情の想いは…

 その男に…

 伝わったみたいだ…

「え、ま、まさか?…」

 男がそう呟くと…

 わたしは無言で、コクンと頷き、まだ握っていた手を…

 ギュッと握り締める…


 わたしたちは大人だ…

 それも中年に差し掛かった大人の男と女なのだ…

 もうそれ以上の言葉は…

「だけど…ここじゃ…」

 イヤ…

 これだけで十分であった…








ストーリーメニュー

TOPTOPへ