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ビッケとビッチ

第2章 11月19日日曜日午後5時~

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「ゆ、悠里さん…
 好きっす、大好きっす…」
 そう和哉くんは呟き、キスをしてくる。

 わたしも大好き…
 でも、その言葉は口には決して出さない。
 
 だって、だって…

 そんな昂ぶった想いなんて…

 多分、今だけだから…

 あと2、3ヶ月もしたらどうなっているかわからないから…

「悠里さん、好きっす、好きっす…」
 そう和哉くんは何度も囁きながらキスをしてくる。

「…………」

 わたしは、そう言われる度にキュンキュンと心を震わせ、昂ぶらせてしまっていたのだが…
 わたしも大好き…とは、どうしても言えないでいた。

 だって…

 わたしは9歳も年上の、37歳のおばさんだから…

 そしてこの先必ず、この歳の差のギャップは如実に現れ、二人の間の壁となってくることは分かっているから…

「大好き、大好きっす、あ…」

 そしてわたしは和哉くんの口に、人差し指でシーっというポーズで押さえた。

「うん、わかった、わかってるから…」
 わたしは、目を見つめながらそう囁く。

「あ…はい……」
 すると和哉くん大人しくなり、ベッドの上で静かに座った。

 あ、やっぱり…

 その和哉くんの姿は、まるで…
 散々甘え、そして
『待て、お座り』
 の姿勢を命じられた、あの頃のビッケの姿みたいだ。

 わたしは、その姿に、更にキュンキュンしてしまう…

「よし、ご褒美あげるね」
 と、わたしはそう囁き、両手で和哉くんの顔を挟み、キスをしていく。

 そうよ、大丈夫…

 落ち着け、わたし…

 わたしはキスをしながら必死にそう自分に言い聞かせていく。

 好きだけど…

 大好きだけど…

 今だけだから…

 落ち着けわたし…





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