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不倫白書 Ⅰ

第1章 初めての不倫…

 9

「あ、も、もうこんな時間だわ…」
 わたしは時計を見て…
 午後10時過ぎ…
 そう呟いた。

「え、あ…」
 すると彼はわたしのそんな呟きに反応し…
「まだ10時ちょっとじゃないですか」
 そう返し、そして、カウンター下の手を、離すまいとギュッと握ってきたのだ。

 そして、わたしの顔を見つめながら…
「まだ帰りたくないな、ううん…」

 まだ帰さない…

 そう呟いてきた。

「えっ…」
 そう呟く言葉と、彼の目と、握られている熱い手の感触に…

 ザワザワ…

 ドキドキ…
 
 と、心が揺れ、震え…

 そして…

 ウズウズ…

 と、カラダの奥深くが疼いてきたのを自覚する。


「え、あ、そ、そんな…で、でも…」

「いつもは…でしょう?」

「え?」

「でも今夜は…」

 旦那さんは居ないんだし…
 と、彼が呟く。


「あ、え、う、うん…」

 そう、わたしは今夜、夫が出張で居ないという事をつい言ってしまっていたのだ…
 いや、違う。

 彼に上手く誘導されて話してしまっていたのである…
 その握られている手が更にキツく、熱く感じてくる。

 そしてその握られている手のキツさが…

『離さない…』

 その熱さが…

『帰さない…』

 と、心に強く訴えてきたのだ。


「あ…う、うん、で、でも…」

 いくらこんな展開に疎いわたしだって…
 さすがにこの流れは分かっていた。

 いや、さっき観た映画の中の正にワンシーンであり…

 読んでいる小説の中にも何度なく出てくるシチュエーションでもあるから…

 ドキドキドキドキ…

 ザワザワザワザワ…

「帰したく…あ…いや…帰さない…」

 ズキズキズキズキ…

 
 この時…

 わたしの中に隠れていた…

 ナニかが…


 いや…

 メスの本能が…


 目覚めた瞬間であった…

 




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