微熱に疼く慕情
第2章 【動き出す熱情】
「あれ、橘さん?」
考え事してたら普通に会社の前まで来ていて
偶然にも山岸先輩に声を掛けられた
「仕事?」って顔を覗き込んでくる
この一瞬で、どう誤魔化すか頭フル回転させてる
「あぁ〜ちょっと忘れ物…」
「そうなんだ、経理部ほとんど休みでしょ?何人かは居たけど」
「そ、そうなんですよ、忘れ物取ったらすぐ帰ります」
咄嗟とは言え、忘れ物以外浮かばなかった…
仕事で遅れてるものもないし、基本先伸ばししないタイプだからトラブルなんてほぼゼロ……それが仇と出た感じ
さっさと誤魔化して帰っちゃお
「そっか、でも橘さんが休みなのに会社で会えちゃうなんてラッキーだな」
すみません、思っクソ朝帰りです……
数時間前までまぐわってました……
なんて口が裂けても言えない
あぁ、真面目な好青年っぷりが今の私には眩しい
あっ!ちょっと待って、2人で居るところ誰かに見られたらヤバくない!?
噂が立ち始めたところだし、またあることないこと言われちゃうよ
エレベーターはまずい……
でも経理部まで階段はかなりキツい
「乗らないの?」って言われて後退る
「やっぱり帰ります、明日でも間に合いそうなんで…」とかやっぱり変かな?
挙動不審過ぎるでしょ
「待って」と手首を掴んで呼び止められる
エレベーターから誰か数人降りてきた気がして、
私は思わず先輩を連れて行ってしまった
階段に繋がる扉の向こう
多分、知らない部署の人たちだったけど
扉から耳を澄ませて立ち去った事を確認した
ホッとしたのも束の間、腕を掴んだまま
先輩を壁側に追いやり密かに身を潜めていたのだ
顔を上げればかなりの至近距離……
「わっ、すみません、つい……」
「ううん、俺は大丈夫だけど、何で隠れたの?」
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