テキストサイズ

O……tout……o…

第1章 おとうと

 5

 そんなクズ男に近いタカシではあるのだが、かわいいところもあるし、何よりわたし自身の寂しい想いを癒してくれる唯一の存在でもある。

 逢っている時はいつもベタベタ、ゴロゴロとまるで機嫌良くノドを鳴らしながら甘えてくるネコみたいだし…
 そしてそもそも知りあったきっかけが、甘く、ベタといえるのだ。

 わたしは大学進学を機に家族との縁を絶ち切るつもりで上京した…
 だけど上京の為の資金や学費等々を高校生のわたしが出せるわけもなく、そういった面で完全に断てなかった。
 しかし進学上京後にアルバイトを掛け持ちし、毎月の仕送りを断り、逆に、毎月数万円だが家族に、いや、母親に送金をした。

 その為にはやはり高時給の夜のバイトを…
 つまりはキャバクラ嬢を週三日、そして、慣れない夜のキャバ嬢という接客の重圧に、何度となく一人泣いた夜もあった…
 だけどキャバクラの高時給は捨てきれない…
 だから、その為の息抜きと自身のリセットという意味もあって居酒屋でも週三日働いた。

 それに居酒屋のバイトは楽しかった、周りが皆学生だったというのもあったし、なにより、居酒屋的な接客が自分には合っていたから…
 たが、自分自身の尊厳を保つ意味で、より高時給、高収入の風俗系だけは絶対に避けると、自分に強く律していた。

 本当は甘いのかもしれない…

 だけどそこに逃げてしまったら、自分自身という存在感と尊厳を失くしてしまうのではないのか、と…
 そして風俗で働くということは、家族を捨てるという決意の素因に体して『本末転倒』な意味になってしまうのではないのか、と…

 学費等々の金額に対しての僅かな毎月の送金をする度、そう考え、こんな自問自答を繰り返し、自身にいいわけをし、最後の一線を超えないよう必死に踏みとどまっていた。

 そんな心が揺れ、弱っていたタイミングでタカシが目の前に現れるたのだ…
 それは同じ居酒屋での新人アルバイトとして、わたしが二年先輩としてタカシを指導することになった時だった。

『タカシくんはなんで、この居酒屋を選んだの?』

『え、あ、いや、あ、葵さんがいるから……』

『え?』

 以前にお客として来店し、その時わたしを見て…
『葵さんと仲良くなりたかったら、だったらバイトで一緒になればいいかなぁって……』

 その言葉、告白に、わたしの心が揺れた…



ストーリーメニュー

TOPTOPへ