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『春のにほひ』

第1章 沈丁花の咲く頃…

 9

「うん、何でも…よ」
 千里さんはそう囁き、僕の隣に横になる。

「もう大変だったのよぉ…」
「え?」
「だってぇあんな少しのお酒でさぁ、バタンキューなんだもん」
 穴があったら入りたい…

「キミ、あ、駿くんは痩せてるけどさ、やっぱり男だからさぁ、ここまで引き摺ってくるの大変だったんだからねぇ」
「す、すいません…」
「ま、かわいいから許す」
 またその笑顔に心が震えてしまう。

 いったい千里さんは幾つなんだろうか?
 三十代には違いないだろうが…
 綺麗で、肌目細やかな色白の肌…
 こんな華奢な身体なのに、僕を運ばせてしまった…
 そして明るい笑顔に、時折翳る暗い影…
 あ…
『寂しい夜…』って言っていた。
 そしてふと浮かぶ母親の言葉と…

『一人でいたくなかったの…』
 その呟き。 

 すると…
「いろいろあるのよ…」
 まるで、僕の心の中の逡巡を覗いたかの様に呟いてきた。

「実はねぇ、駿くんの事、少しだけ知ってるのよねぇ」
「えっ」
「あ、ごめん、知ってるんじゃなくて、何度か見かけた…かな」
「あ…」
「あの公園の前の角のお家よね」
「は、はい」

「うん、たまたまね、見かけただけなんだけどね…
 たださ、うちの前を何度か通るのを見かけててさぁ…」
 そして千里さんは、僕を見つめ…
「かわいい男の子だなぁってさぁ…」
 そう囁き、再び、キスをしてきた。

「あ……」
 その囁き、そのキスに…
 僕の心とカラダは一気に昂ぶってしまう。

 千里さんは僕の唇を吸いながら、抱きつき、カラダを寄せ、押し付けてくる…

「あっ、あら…」
 すると、唇を離し、悪戯っ子の様に目を輝かせ…
「熱く、固くなってるぅ」
 と、僕の昂ぶりの変化を呟き、そして…
「あうっ」
 ギュッと握ってきたのだ。

「ねぇ…」
 千里さんは、熱い目を向けて、そう囁いてくるのだが…

「……………」
「あ、そうかぁ、そうよねぇ、初めてなんだもんねぇ…」
 そう呟き…
「しちゃおうかぁ」

「あ………」

「あ、ごめん、違うわね」
 そう囁き、目を見つめ…

「わたしの心を埋めてくれる…」
 優しい目で見つめ、そう言ってくれたのだ………





「ごめん、待ったぁ…」

「あ、え…」

 突然、待ち合わせしていた彼女の声が…
 僕を現実の世界へと戻してくれた。



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