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『春雷』

第1章 春雷

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 北極星が輝く夜空の下…
 遠くに連なる山の稜線が、時折走る無音の春の稲光でふっと浮かび上がっていた。

「あぁ、なんか音のない花火みたいでキレイだわ…」
 その北の夜空を眺め、そう春美が呟いた。

「え、あ…春雷か………」
 俺は見上げる彼女につられて稜線を眺めながら応える。

「音が鳴ると雷は怖いからさぁ…」
「怖いか……うん、そうだったなぁ……」

『雷鳴が怖いから…』
 そういえば、春美と俺の関係は、この春雷の轟きがきっかけだった。

 その時、早春のまだ冷たい夜風が吹き下ろし、早咲きの桜の花びらを舞い散らせる…
「あら、これもキレイだわぁ………」
 その、飛び散る桜の花びらが、春美の頬を舞う。

「うん、キレイだ…」
「ね……」

 俺は、その舞い飛ぶ桜の花びらの中に浮かぶ春美がキレイだと…
 そんなつもりで呟いたのだが…
「夜桜ってさぁ、なんとなく儚くてキレイよねぇ…」
 春美は舞い踊る花びらに夢中になり、そんな俺の戯れ言なんて気付かない。

「あぁ、キレイだわぁ………」
 そしてその舞う桜を捕もうとしているのか、夜空に向かって手を広げていく…

 その姿はまるで…
 桜吹雪の中で舞い踊っているようであった。


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