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蜜会…五月雨

第3章 春の揺れ

 7

「お義母様、大丈夫ですか?」

 その義母の様子は…
 心電図を付けている以外には、心筋梗塞とは思えない位に変わりない。

「美春さん、ごめんなさいね」

「これ、とりあえず……」
 そう言って、必要品をベッドサイドにしまっていく。

「ありがとう…
 なんか、一週間はベッドから離れちゃダメなんですって…」
 そう話す義母は、まるでいつもと変わりない。

「とりあえず安心しました」

「うん、ありがとう…
 別に余計な心配はいらないから…」

「は…え…」

「美春さんも…せっかくだから…」

「え……」

「せっかくだから…ゆっくり……ね…」

「……………」

 その、義母の…
『せっかくだから…』
 わたしは、その言葉を聞いた瞬間…
 
 吐き気がした―――

 それは、今までのいやらしい視線と、気配が重なる言葉であり…
 昨夜の夫の、嫉妬の目と、声音と、あの、忌みな感触を蘇らせてきたから。

 そして、微かに噛まれた肩が疼いてくる…

「………ま、また……来ます…………」

 わたしは逃げる様に…

 ううん、病室から慌てて逃げ出した…

 本当に、吐きそうであった。


 もう、ダメだ…

 もう、限界だ…

 わたしは颯太と再会してしまったのだ…

 保てない。


 逃げる様に病院の外へと走り…
 名刺を取り出し…
 颯太の番号を発信する。

 息も……止まりそうだった。


 プルプル、プルプル……
 
 だが…

『留守番電話にお繋ぎします……』

 無常な声が聞こえ…

 わたしは力が抜け、病院前のバス停のベンチに座り込む。

 そして、そのタイミングでバスが停車し…
 わたしは当てもなく、呆然と、バスに乗ってしまった。

 とりあえず…

 少しでも病院から…

 義母のいる、この病院から…

 離れるしかなかった。

 とても、同じ空気を吸いたくはなかった。

 わたしは走り出したバスに乗り…
 流れる街並みを車窓から、呆然として眺めていく。

 どれくらい走っただろうか…

 ブー、ブー、ブー……

「あっ」

 握りしめていたスマホが震え…

 わたしは慌てて、停車ボタンを押す。
 
 
 

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