テキストサイズ

蜜会…五月雨

第4章 五月雨(さみだれ)

 5

「う、ぅぅ………」

「先に寝るよ……」

 わたしはうずくまり、口の中のモノを、ティシュに吐き出していると……

 カチャカチャ―――
 と、ベルトを閉め直している夫が、少し上気した目を向け、そう、言ってきた。

「ぅぅ…………」

「少し…キツいから…よく流してな…」
 
 夫はそう言い放ち…

 バタン―――
 と、浴室のドアを閉じ、寝室へと向かった。

「………………」

 キツいから…

 それは、今夜の残り香…

 心の鎧…

 いつもより、わざと、強く、甘くしたフレグランス―――

 鏡に映る、自分を見つめる…

 そこに居るのは誰………

 わたしなの……

 それとも……

 違うの…………

「ふぅぅ……」

 鏡を見つめ、ため息を漏らし…

 少しだけ、呼吸が浅くなる…

 そして、夫の、歪んだ唇―――


 わたしは、鏡から見つめてくる、自分の目を見つめながら、乱れた服を脱いでいく…

『キツいから…』

 そして、あの歪んだ唇が…

 わたしの心から、離れない。



 わたしはゆっくりと、時間をかけて、入念に荒い、清め…

 ベッドへと、静かに忍ぶ。

「……………」
 
 聞こえる、夫の寝息……

 さすがに、今夜は、目覚めなかった。

 シンとした寝室に…

 春の終わりの、微かな雨音が…

 静かに聞こえてきていた。

 そして、わたしは、布団に潜り…

 スマホに触れ…

『明日も逢いたい』

 気付けば、指先が、動いていた―――
 
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ