テキストサイズ

お題小説第6弾「苦い恋」

第1章 苦い恋

それが5月の初旬のことで、
彼女から連絡が来たのが、
6月2日のことだった。

その日は、なんだかどんよりとした曇り空が、
私の憂鬱な気持ちを映しているようだと感じたのを覚えていた。

カラン、と彼女の目の前のグラスの中の氷が
少し溶けて音を立てた。
その音で、はっと私の心が、また『今』に戻ってくる。

私の前にあるショートグラスのマティーニは、
もうすでに空っぽだった。

「亜紀、もう一杯なにか飲む?」

それは、多分、もっと話したいってこと。
それくらい、私でもわかる。

だから、私も彼女と同じものを頼むことにした。

モヒートがふたつ、
私達の前に運ばれてきた。

「ねえ、亜紀」

夏津子は今、金融関係の仕事をしている。
昔からキレる女性だった。
合理的で、思い切りがいい、
人当たりもいいし、何より努力家だ。

彼女にピッタリの仕事だと、私は思った。
そんな彼女が、私に言った。

「不倫でさ、純愛ってあると思う?」

ドキン、と心臓が高鳴った。
思わず、彼女の方を見た。

その視線に気づいた彼女が、くすっと笑った。

「いやね、友達の話」
「友達…?」
「そ。」

やっぱりあの光景が、
ピンク色に染まるネオンに照らされた、
女の横顔が、
私の脳裏に蘇る。

でも、友達の話と言われたら、
そう…としか言いようがない。

「どう思う?」
「その、友達が、そう言ってたの?」
「あ…うん、そう。なんかね、
 すごい年上の男性で、そっちが既婚者。
 シュッとして、カッコいいんだって。
 それで、お前を一番愛してるって。
 その子もまんざらじゃないみたいで、
 …好き、なんだって」

カランと、氷がまた、音を立てた。

なんて言っていいかわからなくなった。
なんて言っても不正解な気がした。

だから、黙ってモヒートを口に流し込む。
爽やかな香りの奥に、甘い味。
私も嫌いじゃなかった。

でも、沈黙を続けるわけにはいかない。
なにか、答えなきゃ…そう思った。

「あ…その…
 結果はどうあれ、愛は、」
「なーんかさぁ…」

『結果はどうあれ、愛はあるんじゃないか』
そんなありきたりなことを言おうとした私のセリフを、
夏津子が遮る。

「なーんかさぁ、
 このミントってやつ、
 嘘つきだと思わない?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ