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Memory of Night 番外編

第4章 Episode of AKIRA


「……さっきから思ってたんだけど。この階全部女物じゃね?」

「うん。春と言えば桜色のワンピースかなと」

「ああ!?」


 しれっとそんなことを返してくる晃に、宵は思わず声を荒げた。

 桜色のワンピース。色はともかく、ワンピースなんてどう考えても女性の召し物だ。

 また女装でもさせる気なのかと思う。


「あ。あれ可愛くない? まさに春って感じ」


 晃が指差す先を目で追うと、案の定、そこもレディース服売り場だった。

 ウィンドウ越しに飾られたマネキン。それが身に纏う、フリルがついた淡い赤色のワンピースを晃は見つめている。


「でも、ああいう色が宵に似合うかは微妙な気がする」

「似合ってたまるかっ!」


 宵は投げつけて、自分の手を引く晃の手を振り払った。

 まったく本当に、わざわざ貴重な休日を潰して何しにこんなところまで来たのか、わかったものではない。

 もう帰ってしまおうと、宵は踵を返してエスカレーターがあった方へ向かった。


「あ……宵!」


 わずかに焦ったような晃の声に呼び止められる。

 一瞬晃は人混みに紛れて見えなかったが、人混みをかき分けてすぐにまた宵の隣に立った。

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