テキストサイズ

Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


 桐原愛美(きりはらまなみ)が高校から帰宅して間もなく、携帯が鳴った。

 制服のスカートをハンガーにかけていた彼女は、手を止めて振り返る。

 教科書や参考書が乱雑に積まれた勉強机の上に、放りっぱなしのままの携帯。それにはストラップやデコレーションなどの類は一切施されていなかった。愛美はその、女子高生の持ち物にしては飾り気のない、白い携帯を見つめる。


(誰だろう?)


 ハンガーをクローゼットに押し込み、手に取った。


(……え?)


 愛美の瞳が見開かれる。


 ディスプレイに表示されていたのは懐かしい、今は遠い地にいる親友の名前だった。

 その名前に驚き、ほんの一瞬愛美の思考がフリーズする。

 手の上の携帯を見つめたまま動けずにいる間にも、耳障りな着信音は鳴り続けていた。

 切れてしまう前に出なければと、我に返って慌ててそれを耳に当てた。


「も……もしもしっ」

「あ……出た。やっほー、久しぶり! 元気してる? てかわかる? あたしのこと」

 耳によく響く、年齢よりもやや大人びた声。懐かしいその声は、あの頃と変わらず異様に元気が良かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ