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Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


「なんで……!?」


 つるんと口をついて飛び出す言葉。

 明はくすくす笑っていた。

 愛美は両手で携帯を握りしめ、身を乗り出すようにして耳に押し当てる。


「あいつ、やっと携帯買ったらしくて。愛美にあげる。あ、あたしが教えたことは内緒ね、アド教えていいか聞いてないから」

「でもそれじゃあ……」

「大丈夫大丈夫」


 明はそう笑い飛ばして、ふいに声色を変えた。


「……言いたいこと、結局言えずに引っ越しちゃったんでしょ? もやもやしたままってなんか嫌じゃん。……今さらっていやあ今さらだけどさ。メールで伝えてみれば? 愛美の気持ち」


 諭すように言われ、愛美は押し黙る。

 思い返せば明には勉強や友達のこと、恋愛のことなど、いろいろな相談をした。

 それでも一つだけ、どうしても打ち明けられない秘密があった。

 二年たった今でさえ、目を閉じれば蘇る。漆黒の髪と、灰色の瞳。

 まるで瞼の奥に焼き付いてでもいるかのように、鮮明に思い出すことができた。

 愛美はもう一度画面の中のアドレスを見つめた。

 指先で、ローマ字の上をゆっくりとなぞる。

 ――taigayoi。シンプルなそのアドレスの持ち主であり明が勧めるメールの相手は、愛美の初恋の男だった。

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