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Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


 苦笑混じりの声。

 それから一度、宵は辺りに視線を移ろわせた。

 闇一色の静まり返った校庭。

 秋口だからか、虫の鳴き声も聞こえない。

 その沈黙が、愛美にはなぜか痛かった。

 冷たい風が木々の葉を微かに揺する音だけがさらさらと響くのみ。

 宵は迷いを払拭するように一度まぶたを伏せた。

 漆黒の髪と黒いセーター。闇に紛れてしまいそうな黒一色のいでだちの中で、白い肌だけが淡く浮かび上がっている。

 彼は細く瞳を開き、つぶやいた。


「――母親だよ」

「お母さん?」


 数秒間を置いて、愛美が尋ね返す。

 宵は小さく頷いてみせた。

 だがそれ以上は口を割る気はないらしく、再び流れる沈黙。

 今度のその視線は愛美を捉えてはいなかったけれど、宵の表情には翳りがあった。

 その顔は、自分と誰かを重ねていると感じた時の顔だ。

 愛美の心は、その表情に揺さぶられていた。

 きっとこの人には、何か抱えているものがあるのだろうと漠然と感じた。

 バイトをたくさんしている理由も、女生徒相手に金と引き換えに何かをしていた理由もわからない。

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