
麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】
第5章 天上の苑(その)
「若さまの意地悪」
「これは凄い役得だな」
悪びれもせず言い、準基は晴れやかな表情でひたすら愛馬を駆り続けた。
その瞬間、浄蓮は風になっていた。風と一体になり、いや、馬を巧みに操っている準基と一体なって、野原を駆けてゆく。
露草の原を渡る風のように。
空の色を写し取った可憐な花々を優しく揺らす風のように。
なお疾駆する馬に乗ること四半刻余りが過ぎた頃、漸く準基が白馬を止めた。
「さあ、ここだよ」
準基に抱き下ろされ、馬から降り立つ。
こうして優しく扱われていると、我が身が本当に〝女〟になったような気がする。
一瞬だけ、男ではなく女として生まれたかったと思ってしまい、浄蓮自身、そんなことを考えた自分に衝撃を受けた。
妓房に入ってからでさえ、女になりたいと願ったことなど、一度としてなかったのに。
白馬はとても従順な性質らしく、特に繋がずとも、大人しく青草をついばみ始めた。
「今し方の眺めも良かったが、今度のはもっと気に入るはずだ」
準基は自信たっぷりに言う。
見てごらん、と、準基が指さした方向をつられるように見て、浄蓮は、今日はこれで二度目になる歓声を上げた。
少し手前に、巨大な池が横たわっている。満々と水を湛えたその池の面は、何と無数の蓮で埋め尽くされていた。
「―」
最早、言葉は出なかった。
いや、これだけの光景を作り上げた大自然の前では、どのようなきらきらしい言葉で飾り立てたとしても、所詮、その万分の一かを言い表せるにすぎないだろう。
そう素直に思ってしまうほどの圧巻だ。
薄紅色の蓮花がびっしりと隙間なく浮かんでいる様は、まさにこの世の極楽浄土を彷彿とさせる。
「これは凄い役得だな」
悪びれもせず言い、準基は晴れやかな表情でひたすら愛馬を駆り続けた。
その瞬間、浄蓮は風になっていた。風と一体になり、いや、馬を巧みに操っている準基と一体なって、野原を駆けてゆく。
露草の原を渡る風のように。
空の色を写し取った可憐な花々を優しく揺らす風のように。
なお疾駆する馬に乗ること四半刻余りが過ぎた頃、漸く準基が白馬を止めた。
「さあ、ここだよ」
準基に抱き下ろされ、馬から降り立つ。
こうして優しく扱われていると、我が身が本当に〝女〟になったような気がする。
一瞬だけ、男ではなく女として生まれたかったと思ってしまい、浄蓮自身、そんなことを考えた自分に衝撃を受けた。
妓房に入ってからでさえ、女になりたいと願ったことなど、一度としてなかったのに。
白馬はとても従順な性質らしく、特に繋がずとも、大人しく青草をついばみ始めた。
「今し方の眺めも良かったが、今度のはもっと気に入るはずだ」
準基は自信たっぷりに言う。
見てごらん、と、準基が指さした方向をつられるように見て、浄蓮は、今日はこれで二度目になる歓声を上げた。
少し手前に、巨大な池が横たわっている。満々と水を湛えたその池の面は、何と無数の蓮で埋め尽くされていた。
「―」
最早、言葉は出なかった。
いや、これだけの光景を作り上げた大自然の前では、どのようなきらきらしい言葉で飾り立てたとしても、所詮、その万分の一かを言い表せるにすぎないだろう。
そう素直に思ってしまうほどの圧巻だ。
薄紅色の蓮花がびっしりと隙間なく浮かんでいる様は、まさにこの世の極楽浄土を彷彿とさせる。
