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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第2章 麗しの蓮の姫

とはいえ、現実は浄蓮の想像のように甘くはなかった。とりあえず翠月楼に置いて貰えることになったものの、浄蓮は妓生の見習いではなく、下働きの女中として雇われる形になった。
 が、時ここに至り、奇妙な現象が起きた。ただの女中として雇われた娘が本物の妓生よりも客の注目を浴び、ひと月も経たない中に〝麗しの浄蓮〟とその艶やかな美貌が客たちの間で話題になったのだ。
 客の中には豪商や両班もいた。高級の見世ではないが、客筋はそれなりに良いのが翠月楼の自慢である。もっとも、両班といっても、上流ではなく中流以下ばかりだけれども。
 とにかく、その好色な両班や商人が浄蓮を側妾に欲しいと言い出す始末で、他の妓生たちはすっかり浄蓮の華やかさの影に霞んでしまう形となった。
 それでも、女将は浄蓮を見世には出さず、見習いにすら直そうとはしなかった。浄蓮は一年経った今も、下働きのまま一日中、雑用に追われている。
 この一年で、浄蓮の美しさには更に磨きがかかった。女将は何故か、この下働きの少女に妓生に必要な舞、伽倻琴(カヤグム)、詩歌などを教え込んだ。そのため、女将がいずれ浄蓮を妓生として披露するのではと勘繰る者もいたが、女将の腹は実のところ、誰にも判らない。
 浄蓮当人にすら、女将は本心を明かさなかったからだ。
「では、そなたは何の見返りも求めずに、苦界に入ったというのか?」
 準基の問いに、浄蓮は長い物想いからハッと我に返った。
「確かに私の気持ちはそうでした。むろん、お金に困っていなかったと言えば嘘になりますけど、それなら、住む場所と食べる物があれば、どこだって良かったのです。翠月楼に置いて頂くだけで十分、最初からお金を頂くつもりはなかったのです。でも、女将さんは私に過分の身請料を下さいました」
「身請料―、そなたは、それを家族に渡したのだろうな」
 浄蓮はこのときだけ、少し哀しげに微笑んだ。

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