麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】
第2章 麗しの蓮の姫
客の前には酒肴の並んだ小卓が幾つもあるが、ご馳走の方はともかく、酒の方は空になった銚子が数え切れないほども転がっている有り様だ。
つまり、浄連はそれを理由にこの場をやり過ごそうとしたのだが、生憎と、ファンジョンはその苦肉の策をあっさりと退けた。
「そのような下手間は誰か他の者にやらせれば良い。おい、そこの女、お前がやれ」
ぞんざいに顎でしゃくったその先には、ひっそりと目立たない妓生がいた。翠月楼の妓生の中では二番目に若い女である。
けして醜い容貌ではないのに、陰気に見えるのは淋しげな顔立ちのせいかもれしない。その上、大人しすぎるほどのこの気性は、妓生たちが妍を競い凌ぎを削るこの苦界にはけして向いてはいなかった。
「坊ちゃん、下手間仕事を姐(ねえ)さんにはさせらません。私はまだ一人前の妓生ではないのです。見習いでさえない、ただの下働きなのですから、本来なら、私のような者がこの場にいるべきではないのです」
浄連が訴えても、ファンジョンは聞く耳も持たない。
「フン、翠月楼の女将の腹は読めぬな。浄連、そなたはもう直、十六になるのだろう? 花の盛りのそなたを女将は何故、見世に出さぬのか。元々、そなたは妓生になりたくて翠月楼に入ったと聞いている。ここに来て一年が経つというのに、いまだに女中のように使い走りや掃除しかさせていないとは解せぬ話よ」
「―」
押し黙った浄連を桓全(ファンジヨン)は感情の読めぬ瞳で見ている。どこか酷薄さを漂わせる底光りのするこの眼が浄連は嫌いだ。
つまり、浄連はそれを理由にこの場をやり過ごそうとしたのだが、生憎と、ファンジョンはその苦肉の策をあっさりと退けた。
「そのような下手間は誰か他の者にやらせれば良い。おい、そこの女、お前がやれ」
ぞんざいに顎でしゃくったその先には、ひっそりと目立たない妓生がいた。翠月楼の妓生の中では二番目に若い女である。
けして醜い容貌ではないのに、陰気に見えるのは淋しげな顔立ちのせいかもれしない。その上、大人しすぎるほどのこの気性は、妓生たちが妍を競い凌ぎを削るこの苦界にはけして向いてはいなかった。
「坊ちゃん、下手間仕事を姐(ねえ)さんにはさせらません。私はまだ一人前の妓生ではないのです。見習いでさえない、ただの下働きなのですから、本来なら、私のような者がこの場にいるべきではないのです」
浄連が訴えても、ファンジョンは聞く耳も持たない。
「フン、翠月楼の女将の腹は読めぬな。浄連、そなたはもう直、十六になるのだろう? 花の盛りのそなたを女将は何故、見世に出さぬのか。元々、そなたは妓生になりたくて翠月楼に入ったと聞いている。ここに来て一年が経つというのに、いまだに女中のように使い走りや掃除しかさせていないとは解せぬ話よ」
「―」
押し黙った浄連を桓全(ファンジヨン)は感情の読めぬ瞳で見ている。どこか酷薄さを漂わせる底光りのするこの眼が浄連は嫌いだ。