麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】
第5章 天上の苑(その)
が、ここのところ、浄蓮は何をやっていても、今一つ身が入らなかった。何だか、これまで自分が立っていた場所が音を立てて崩れ去ってしまったような脚が地についていないような心許ない気分なのだ。
両膝を腕に抱え込んだ姿勢で、浄蓮はホウッと大きな溜息をついた。
こんなときこそ、秀龍が訪ねてくれれば良いのに、義兄は数日、姿を見せていない。多分、科挙の試験準備で忙しいのだろうと適当な理由を想像して、自分を納得させた。
俺も良い加減に兄貴から独立して、兄貴を解放してやらなきゃな。
浄蓮はおよそ外見の可憐さからは思いも及ばないような男言葉で呟く。
秀龍が浄蓮の面倒を見なければならない義理も責任も実のところ何一つとしてない。なのに、自分は義兄の優しさに甘えて、いつも頼り切ってばかりだ。秀龍にしても、いつまでも浄蓮に構ってばかりはいられないはずだ。
皇秀龍は来年の科挙ではまず間違いなく合格者の上位に名を連ねるだろう―と、早くも噂されている。そうなれば、秀龍も晴れて義禁府武官として任官する。公の務めにつけば、今までのように気軽に色町に脚を運ぶ暇もなくなるだろう。そう思うと、浄蓮は何となく心に言いようのない淋しさがひろがった。
そうだ、いつまでも兄貴を頼ってばかりじゃ駄目だ。
そう自分に言い聞かせてみても、芸事の稽古も止め、本当にただの下働きになった今の暮らしには、およそ張りというものがなかった。妓房に身を投じたのは妓生になりたかったからで、何も女中になるためではない。
初めは単に綺麗な着物を着たいという欲求に駆られていただけだったのに、いつしか妓生という職業そのものに強く魅せられるようになっている自分に改めて気付いたのだ。明月のように、喜びも哀しみも超越した上に〝妓生〟という衣を纏い、凜として美しい花を咲かせてみたいと思うようになった。
両膝を腕に抱え込んだ姿勢で、浄蓮はホウッと大きな溜息をついた。
こんなときこそ、秀龍が訪ねてくれれば良いのに、義兄は数日、姿を見せていない。多分、科挙の試験準備で忙しいのだろうと適当な理由を想像して、自分を納得させた。
俺も良い加減に兄貴から独立して、兄貴を解放してやらなきゃな。
浄蓮はおよそ外見の可憐さからは思いも及ばないような男言葉で呟く。
秀龍が浄蓮の面倒を見なければならない義理も責任も実のところ何一つとしてない。なのに、自分は義兄の優しさに甘えて、いつも頼り切ってばかりだ。秀龍にしても、いつまでも浄蓮に構ってばかりはいられないはずだ。
皇秀龍は来年の科挙ではまず間違いなく合格者の上位に名を連ねるだろう―と、早くも噂されている。そうなれば、秀龍も晴れて義禁府武官として任官する。公の務めにつけば、今までのように気軽に色町に脚を運ぶ暇もなくなるだろう。そう思うと、浄蓮は何となく心に言いようのない淋しさがひろがった。
そうだ、いつまでも兄貴を頼ってばかりじゃ駄目だ。
そう自分に言い聞かせてみても、芸事の稽古も止め、本当にただの下働きになった今の暮らしには、およそ張りというものがなかった。妓房に身を投じたのは妓生になりたかったからで、何も女中になるためではない。
初めは単に綺麗な着物を着たいという欲求に駆られていただけだったのに、いつしか妓生という職業そのものに強く魅せられるようになっている自分に改めて気付いたのだ。明月のように、喜びも哀しみも超越した上に〝妓生〟という衣を纏い、凜として美しい花を咲かせてみたいと思うようになった。