麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】
第5章 天上の苑(その)
芸に生きるだなどと、たいそうなことを考える必要もなく、厳しい稽古を積むこともなく、ただ男を閨の中で悦ばせてやれば良いだけの話だ。身体だけを売るのに、難しい理屈も芸も要らない。
などと、どう考えても自棄(やけ)としか思えないことを考えるときもあった。
膝の上にポトリと涙の雫が落ち、浄蓮は慌てて手のひらで眼尻の涙をこすった。
その時。
ふいに眼前に、白い手巾が差し出された。
愕いて顔を上げると、誰かが立っている。視線を更に動かすと、その先には、懐かしい貌が見えた。
懐かしい―、逢うのはこれで三度目、しかも前に逢ってからまだ二十日ほどしか経っていないのに、懐かしいも何もないだろう。そう思うのに、懐かしくて堪らない。
浄蓮は先刻の決意も空しく、大粒の涙を零しながら、眼前の男、任準基を見上げた。
浄蓮の涙を見た刹那、準基は胸を衝かれた。まるで素手で心臓を鷲掴みにされたような、雷に全身を貫かれたような衝撃を受けた。
準基は、三日前に翠月楼で起きた梁ファンジョンをめぐる一件は知らない。だが、この気丈な少女が人前で涙を見せるには、何かよほどのことがその身にあったのだろうと思わずにはいられなかった。
もう、二度とは来るまいと思っていた場所であった。浄蓮には、既に皇秀龍という恋人がおり、自分が出る幕はないのだと思い知らされているはずなのに、この娘に逢わなかった間、面影は薄れるどころか、逆に日毎に鮮明になっていった。
愛しい浄蓮の面影を胸に抱き、悶々として、学問にもろくに身が入らなかった。自室で書見していても、文字は頭の中を素通りしてゆくだけで、内容はいっかな入ってこない。ただ文字を追っているだけで、ついには本を放り出して寝っ転がってしまう始末だ。
などと、どう考えても自棄(やけ)としか思えないことを考えるときもあった。
膝の上にポトリと涙の雫が落ち、浄蓮は慌てて手のひらで眼尻の涙をこすった。
その時。
ふいに眼前に、白い手巾が差し出された。
愕いて顔を上げると、誰かが立っている。視線を更に動かすと、その先には、懐かしい貌が見えた。
懐かしい―、逢うのはこれで三度目、しかも前に逢ってからまだ二十日ほどしか経っていないのに、懐かしいも何もないだろう。そう思うのに、懐かしくて堪らない。
浄蓮は先刻の決意も空しく、大粒の涙を零しながら、眼前の男、任準基を見上げた。
浄蓮の涙を見た刹那、準基は胸を衝かれた。まるで素手で心臓を鷲掴みにされたような、雷に全身を貫かれたような衝撃を受けた。
準基は、三日前に翠月楼で起きた梁ファンジョンをめぐる一件は知らない。だが、この気丈な少女が人前で涙を見せるには、何かよほどのことがその身にあったのだろうと思わずにはいられなかった。
もう、二度とは来るまいと思っていた場所であった。浄蓮には、既に皇秀龍という恋人がおり、自分が出る幕はないのだと思い知らされているはずなのに、この娘に逢わなかった間、面影は薄れるどころか、逆に日毎に鮮明になっていった。
愛しい浄蓮の面影を胸に抱き、悶々として、学問にもろくに身が入らなかった。自室で書見していても、文字は頭の中を素通りしてゆくだけで、内容はいっかな入ってこない。ただ文字を追っているだけで、ついには本を放り出して寝っ転がってしまう始末だ。