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掌の浜辺

第3章 夏 - cheer -

1.本当のこと

夏がもう目の前の6月下旬にさしかかった日の夜
私たちはこのビュッフェレストランに来ていて
いっぱいお話に花を咲かせているところだった


 「このあとカラオケ行きたいんですけど…」
 「いいね!行こ」
 「はい」
 ちょっと今まで無理しすぎて、もうやばいかもって思ったから、この時間でも、個室で、ゆっくり落ち着けるところ。終電までには帰るけど、それまでちょっと。りょうこさんは、私の様子には気づいていたみたいだけど。でも、りょうこさんの前でよかった。それが、カラオケル-ムに入って店員さんが出ていったあと。私は、テ-ブルに伏せた。
 …ぐすん……
 「よしよし」
 私の背中を優しくさすりながら、なだめてくれるりょうこさん。泣く私。このときは、恥ずかしさは全然なくって、ひたすら涙がぽろぽろ落ちるだけ。
 「ぐしゅ……りょうこさぁん…」
 私は、りょうこさんにもたれかかる。抱擁されたかった。癒されたかった。温もりが、ほしかった。
 「うん、うん」
 優しく背中をなでてくれる。軽く、ぽんぽんと、いいこいいこしてくれる。余計、涙があふれてくる。
 「だいぢぉ-ぶだよ☆」
 「ぅっ…ぐすっ…」
 ****
 夜11時過ぎ。ようやく落ち着いた私は、メイクがひどいことになっていたから、直す。
 「ゆうこ、すっぴんも可愛いじゃん。うらやましい!」
 「そんなことないです><」
 お化粧をしながら私の耳に入ってくる、りょうこさんの言葉。本当はちょっぴりうれしいけど、自信はないから…
 お化粧も直して、カラオケ屋さんを出て、私たちはそれぞれおうちに帰っていった。

 西海浜病院の病室にて。
 「園田…」
 目が覚めたのは、1週間前のこと。あの手術のあと、俺がちょうどバスに乗ったくらいの時間に。それが早かったらよかったが、今日こうして会えたからいい。4人相部屋だ。
 「よかったな」
 「おのさんに言われてもうれしくないわ」
 「そか」
 「…相変わらず受け身な態度」
 「それが俺だから」
 「文化祭のことだったら積極的なのによ」
 「ま-俺ら4年は最後だから」
 返事はしない園田。でも、わかってる。ケンカしてるように見えるかもだが、 俺らの会話はいつもこんな調子。
 「したらまたな」
 やっぱり返事なし。よかった。また来てもいいって証だから。

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