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井上真緒編

第2章 2

次の日に真緒は田中と、その物件を見に行くことになった。真緒は仕事が終わるとすぐに帰った。疲れがでてしょうがないのがそうさせていた。とりあえず帰ってすぐ風呂に入ったが、それでも疲れがどんどん重たくなっていく感じだった。そうなれば、もう酒を飲むしかない。食事をとった後一杯やった。テレビでは選挙関連の報道をやっていた。ただ、真緒にはなんの関係もないことのように思えた。それは、小倉とチリ子のことが気になったからだろうか。さっきまでは、新しい仕事のことが気になっていたが、飲み始めたら、そっちを思い出した。ただ、あのチリ子の態度はいったい何なんだと思ってしまった。全く悪びれる様子もなく、いつもと同じように真緒に接してきたのだ。どうかしてんじゃないのと言うのが、正直な気持ちだったのかもしれない。ただ、偶然会ったところを見かけたのかもしれないし、同じ課で仕事をしているだけに、どう対応していいのか分からなかった。しかし、なんか釈然としないのは、真緒と同じ立場になれば、誰でも同じだろう。元から会社での人付き合いを重視してなかったのだから、こういうことがあってもおかしくないのかもしれないが、それが、チリ子だというのは、やっぱり複雑だった。あ~あ。どうすんのよといったときだった。テーブルがガタガタ震えて、どこからともなく笑い声が聞こえてきたのだ。しかし、どこを見ても、なにもいない。それはそうだ。そんなことは、現実にあるはずがないのだ。飲み過ぎたのかなと思ったが、しかし、酒の量はいつもと同じだった。体調は悪いわ、幻聴が聞こえるわでは、真緒も自分がおかしくなったとしか思えない。なんか酒もまずくなってきて、その夜はもう眠った。そして次の日は、会社に行くと、田中の運転で、あの物件を見に行った。物件は京王線のいくつか目の駅で、その駅からは5分ぐらいの駅の通りに面した物件だったが、その5階建てのビルが立っているところは、丁度カーブになっていて、通りからは見えないと言う感じだった。

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