向かいのお兄さん
第9章 祭
「消さないよ」
『…』
「消すわけないじゃん」
直也はあたしの頬を撫でた
その指先を滑らせ、あたしの顎を持ち上げ
軽く唇を重ねた
「こんなに面白いおもちゃ、手放したくない」
『…』
面白い
おもちゃ
「もう、いいから。
早く駐車場行くぞ」
『…』
「…流すぞ」
またそうやって
脅す
『行かない…』
「は?」
『あたし…帰る…』
もう
直也の言いなりは
やだ
「声、流すって言ってんだろ?」
『帰る…』
あたしは、体の向きを変え
自宅の方へ歩いて行こうとした
「花火見なきゃ損だろ!!」
初めて直也に
怒鳴られた
驚いて振り返ると
もうあたしの手は、直也に引っ張られていた