テキストサイズ

澪―みお―

第2章 井藤 美智子

井藤美智子。
その女性がワタシの所に現れたのは、葛原という老人が命を絶って丁度一週間経った頃だった。
井藤美智子越しに見た澪は、葛原越しに見た孫娘だった。
ワタシは澪と言うのだろうか…
この女性はワタシの母親なのか…

「お母さん…」

声に出してはみるものの、全くピンとこない。
本当だとしても、生まれてすぐに離れてしまったのだ。
懐かしいハズもない。
お母さん…落ちる気なのか…
止めた方がいいのか…
ワタシに権利はあるのか…
赤の他人ではないのに…
頭の中がグルグルしている間にも゙お母さん゙は柵を乗り越え、終わろうとしている。

お母さん

゙お母さん゙はシャンと姿勢を正したかと思うと、つぎの瞬間にはその華奢な背中は見えなくなっていた。

「…お母さん」

さっきまでピンとこなかった言葉。
何故だか胸の奥を締め付けた。
遠くの空は明るいのに、ワタシには少し滲んで見える。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ