向かいのお兄さん
第54章 好きだから、食え
「美咲…」
あたしは直也の服を掴もうとしたけれど
窮屈すぎて、動けなかった
「雅也は…お菓子作りを教えてただけ…?」
『ずっとそう言ってたじゃんか…物分かり、悪ぃ…』
「そ…」
ずっとその場で
抱きしめられたまま…
血、止まっちゃいそう…
「俺のために、がんばってくれたんだ…」
『そうだよ…そうだよ、そうだよ…がんばったんだよ…』
「美咲…俺、勝った」
その唐突な話の転換に
あたしは少しだけ顔を上げた
「雅也に、勝てた…」
今度は直也が
泣き出しそうな顔をしていた