向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
………………………
「ほんと、照れ屋さんっていうか何ていうか…」
病室は
いつもに増して静かだった
「神崎さーん、体調はどうですかー?」
白衣を身にまとった看護師が、優しい顔をして部屋に入ってくる
「元気よ?最近は日に日に良くなってる気分」
「それは良いですね、それなら今日は楽しめそうで。息子さんの結婚式ですもんね」
彼女は車椅子に移されると、ふふっと笑った
「どうかなさいましたか?」
「いえ、ちょっと…」
車椅子を押され、彼女は少しずつ開いた扉に向かっていく
「あの子が結婚しようと思うってポロっと私に行ってくれたことを、私思わず花嫁さんに言っちゃうところだったの」
数年前、この部屋で起こったことを思い出す
「あの子、すごく怒っちゃってね…当たり前かしら。
今思うと、私を一生懸命看病してくれたのは、自分が一人前になるところを見届けてほしいからじゃないかななんて考えたりして…」
「男の子は変に意地っ張りだったりしますもんね」
「ええ、大変ね…」
病室を出ると、廊下を進んだ
「私もおしゃれして式に行かなきゃ」
「朝から丁寧におめかししてたじゃないですか、大丈夫ですよ」
「あらそう?」
くすくすと笑い声が響いた
窓の外は
青空であった
END