All Arounder
第6章 Expressionless Princess
『どうして?』
ガラス玉のような瞳は
まっすぐ大志を見る
「頼まれたから」
『誰に?』
西浦姫が動かすのは
その柔らかそうな唇だけだった
「それは言えねぇよ…なぁ、お姫さん…」
大志の指は、頬から唇へ移動した
「キスして、いい?」
この凍てついた表情を
歪ませてやりたくなったんだ
『好きにしたらいい』
「…」
大志は手を離した
ここまで期待を裏切られたのは久しぶりで
こんなに綺麗な女が
無表情でいることに
変な苛立ちさえ覚えた