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短編集

第5章 イブと自販機と男

ポケットに手を突っ込んで歩く。
口にくわえた煙草の煙が後ろに流れていく。
いつもと違う帰り道。
街灯もない。

―たぶん、こっちに歩けば帰れるだろ。
男は周囲の景色も見えにくいので、だいたい自宅のある方に向かって進む。
車は通れるくらいの舗装された道。
住宅街を抜けていく。

「…あれっ?」
住宅街が途切れて空き地に出てしまった。
―ちっ。
男は内心舌打ちをした。
暗くて方向感覚が狂ったのかもしれない。
簡単に自宅にたどり着けるだろうと考えていたのに、道に迷ってしまったようだ。

―まあ、どうせ帰っても一人だ。誰も俺のことなんか待っていない。


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