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短編集

第9章 「マンホール」

「な、なにこれ…」

「なにこれって…あ~…あ~」

俺は泣きそうになった。

これでは助けが呼べない。

それに今時、携帯が壊れてしまっては出られても非常に困る。

もう勘弁して欲しい。


「ごめんね~…」

さすがに消沈した様子の俺を見てゴスロリが謝った。
「ああ…いいよ…仕方ないよ」

なんとかそう返事する。

「そう言えば、君は携帯電話を持ってないのか?」

「え?携帯電話?スマートフォンなら持ってるわよ?」

―いや、まあどっちでもいいんだが。

「それじゃ助けを呼べるじゃないか!」

「ちょっと待って。聞いてね。私、落ちる前にラインで友達と話しながら歩いてたんだけど、落ちたときにどこかに飛んでいってしまったみたいなの」

「つまり、今は持ってない?」

「そゆこと」

「そゆことか…」

ウンと頷いてゴスロリは眉間に眉を寄せた。

「とりま、どうしよっか」
「とりまって?」

「とりあえず、まあ。知らないの?」

「知らないよ」

「もうちょい勉強した方がいいよ」

「そりゃどうも。」

「どうしよっか?」

「たよあ、上にあがらないと」

「たよあって?」

「助けを、呼ぶのは、諦めて」

「そんなのないよ」

「作ったんだよ、ダメか?」

「まあ、いいけど。」


俺とゴスロリはくだらない会話をして少しだけ笑った。

お互いに不安を紛らせようとしていたのかもしれない。

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