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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第3章 運命の邂逅

 十年間、我が子と変わらぬ愛情を注ぎ、時には厳しくしつけてきたのだ。
 ソルグクの脳裡に、ふいに梨花が幼い日の出来事が甦った。
 あれは確か梨花が八つくらいのときだったか。ある日の昼下がり、遊びに出た梨花は生まれてまもない野良の仔猫を連れ帰った。真っ黒で翡翠色の眼をした不思議な猫だった。
 むろん、母は梨花にすぐ仔猫を元の場所に戻してくるように命じた。我が家では、仔猫を飼ってやるようなゆとりはなかった。しかし、素直なはずの梨花はいつになく頑なで、母の言葉を聞き入れず、やっと夕刻になってから仔猫を抱えて出ていった。
 それで、すべてはおしまいだと誰もが信じて疑わなかった。だが、梨花は仔猫をどうしても棄てられず、ひそかに飼っていたのだ。近くの空き家に八百屋から貰った紙の箱を置き、仔猫を入れて時々、食べ物を与えていた。

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