遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第1章 燐火~宿命の夜~
「さっさと始末しちまおうぜ」
男たちの持つ松明なのか、海棠の繁みの向こうで焔がゆらゆらと揺れている。
降り始めた雨は止むどころか、次第に強くなり、梨花の黒髪や純白の夜着をしとどに濡らした。
寒い。身体の芯から悪寒が這い登ってきて、梨花は小刻みに身体を震わせた。五月の初旬、深夜はまだ冷える。殊に雨に打たれては、寒いと感じるのも当然だ。
むろん、堪(こら)えようとしても堪えられない震えは、恐怖のせいもあるだろう。梨花の背に回ったスンチョンの手に力がこもった。
その時。
クシュンと小さなくしゃみが洩れたのと、スンチョンがハッと息を呑んだのはほほ同時であった。
梨花には、自分たちを執拗に追う男たちがニヤリと笑って顔を見合わせたのが眼に見えるような気がした。
男たちの持つ松明なのか、海棠の繁みの向こうで焔がゆらゆらと揺れている。
降り始めた雨は止むどころか、次第に強くなり、梨花の黒髪や純白の夜着をしとどに濡らした。
寒い。身体の芯から悪寒が這い登ってきて、梨花は小刻みに身体を震わせた。五月の初旬、深夜はまだ冷える。殊に雨に打たれては、寒いと感じるのも当然だ。
むろん、堪(こら)えようとしても堪えられない震えは、恐怖のせいもあるだろう。梨花の背に回ったスンチョンの手に力がこもった。
その時。
クシュンと小さなくしゃみが洩れたのと、スンチョンがハッと息を呑んだのはほほ同時であった。
梨花には、自分たちを執拗に追う男たちがニヤリと笑って顔を見合わせたのが眼に見えるような気がした。